黒歴史 その10

今にして思えば、この時の父の対応も、私の反発を招いただけで、実は必ずしも適切ではなかったことが、今なら分かります。


そうですね。父が、『完璧な人間はいない』と言ったのがどういうことなのかについても。


父は大変に優秀で高い能力を持つ人なのは疑う余地はありません。それが故に大企業の重役にまでなれたのですから。


ただ、父は、今回の件で私を納得させることはできませんでした。表向きは田上さんに謝罪したようなフリをしていても、内心ではまるで反省していなかったのですから。


だから次に学校で田上さんにあった時にも、


「おはようございます、田上さん。この間は本当にごめんなさいね」


と頭を下げながら、


『これが最も合理的な判断というものでしょう』


などと、ただの<打算>から形だけの謝罪をしていたのです。


「…あ、うん。もういいよ。気にしてないから」


そうおっしゃってくださった田上さんに対しても、


『何でしょう。その煮え切らない返事。まあ構いません。気にしてないと言質がいただけた以上は目的は果たせました』


のような、不遜なことを腹の中では考えていたのです。


そう。父の対応は、私に『自らの過ちを気付かせ反省を促す』という点においては、必ずしも適切であるとは言えなかった訳ですね。私の父ですら、<完璧>ではないということでしょう。


故にこの時点での私は、あくまで、


『私に対してあれほどまでにはっきりとものを言える田上さんが何故、三軍相当の生徒と行動を共にしているのか?』


という点に関心を持ってしまったことで、彼女達に近付こうとしたのです。


それは決して<好意>からではなかったのは紛れもない事実でした。




田上さん達はいつも一緒に行動していました。


休憩時間になると集まって課題をしたり復習をしたり。部活も三人とも茶道部ということで、学校にいる間は本当に常に行動を共にしていました。にも拘わらず、一人では何もできない人達なのかと言えばそうでもないという印象もあります。


女子にありがちな、トイレにまで一緒に行くということはあまりなく、課題もお互いに見せあって同じように終わらせるのではなくそれぞれ自分のペースで自分のやり方でやってるようでした。


集まっているのに同調してるわけじゃない。かと言ってそれぞれが好き勝手なことをしてるわけでもなく、何と言えばいいのでしょう? ただ、それぞれ自由にしながら空間を共有してる? とでも言えばいいのでしょうか?


この感じ、どこかで…?


とにかくその三人のことが気になった私は、様子を窺い始めてから一週間ほどしたある日の放課後、改めて声を掛けてみたのでした。


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