モンスターペアレント? その3

『彼のことを好きな女性が他にもいる』


考えてみればそれはむしろ当然の事態でした。彼ほどの素晴らしい男性に惹かれる女性が他にもいるのは、もはや必然と言うべきだったでしょう。


とは言え、無論私が小学生に負けるなどということがあり得るとは思いません。思いませんが、不確定要素が増えるのは好ましくないのも事実です。では、このような事態において私はどうするべきでしょうか?


そう考えた私はまず、とにかくその石生蔵千早いそくらちはやなる人物がどのような女なのかを確認するべくさらに聞き込みを続け、ついに石生蔵千早の大まかな住所を手に入れたのです。それと同時に写真も入手しました。三年生の時のものとは聞きましたが、そんなには大きく変わってはいないでしょう。


その写真を一目見て私は、


『勝った』


と思いました。華やかさの欠片もない、凡庸なだけの少女。これならば小学生当時の私の方が上です。成長してもたかが知れているでしょう。


しかし―――――


『念には念を入れて、現在の石生蔵千早自身を確認するべきですね…!』


とも考えました。


「ごめんなさい。今日は部活休みます」


自分の教室に戻った時にパッと目についたカナにそれだけを伝え、鞄を手にすぐさま教室を出ます。


「お、おい、ピカ…!」


とか呼んでた気がしましたが、それどころではありません。


部活を休んで放課後はすぐに家に帰り、石生蔵千早の写真を片手に住所の辺りで張り込みを行います。すると幸いなことに、


『……いた…!』


三日で本人の姿を確認しました。写真とさほど変わっていなくて、改めて凡庸な小学生女児だという印象でした。やはり私が負ける要素は見当たらないと思いました。


けれどさらに念を押すために、私は彼女の前に立ちふさがります。


「石生蔵千早さんですね?」


「は、はい…」


と頷いた彼女の目に、戸惑いと怯えが見えました。そんな彼女に対して私は宣言したのです。


「私、あなたになんかに負けませんから」


それだけを口にして、その場を立ち去ります。今はこれで十分だと思いました。今後私の前に立ちはだかるなら、その時はその時です。私は決して負けません。引き下がりません。


翌日からはまた、それまでの様にイチコ達と一緒にいるようになりました。部活にも復帰しました。


部活が終わり学校を出る時、


「部活サボって何やってたの?」


とフミやカナに訊かれましたが、そこまでのことを話さなければならない理由はないので、


「プライベートのことなので余計な詮索は無用です」


とだけ答えます。


その時、フミのスマホに着信がありました。地域の警察署からのエリアメールでした。それをフミが読み上げます。


「えーっと、何々? 昨日夕方五時ごろ、小学四年生の女子児童への声掛け事案がありました。女児に声を掛けた不審者は二十歳前後の若い女とみられ、女児の名前を確認したのち、『負けませんから』と意味不明な発言をして徒歩で逃走した模様。


だって。変な人がいるもんだね」


「なんだそりゃ、どこの変態女だよ」


とカナが笑いました。


って、まさかそれは…?


「ん? どうしたのピカ? 顔が赤いよ」


イチコに訊かれて私は「え? そうですか?」とだけ返しておきました。けれど私はなんだかまた、自分がやってしまったような気分になっていたのでした。


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