お願いHELP! その1

『彼に近付く虫を追い払おうとしてしたことが、まさか声掛け事案になるなんて……』


これにはさすがの私も凹みました。


幸い、その後は何事もなくその不審者が私であるということも知られることなく数日が過ぎましたが、正直、警察が事情を聴きに来るのではないかと気が気ではありませんでした。


いえ、自分がしたことだから、私が事情を聴かれるのはいいんです。ただ、両親に迷惑が掛かるのではないかと思うと……


けれど、この時、私はそれ以上に気掛かりなことがあったのでした。


彼と石生蔵千早いそくらちはやの件が一応の解決を見たその後、


「ヒロ坊とあの石生蔵ってコ、仲良くなったみたいだよ」


「……え…っ!?」


と、彼とその石生蔵千早が親密にしているらしいという話をイチコから聞かされたからです。


冷静になって考えてみれば、私が彼女に対して『負けませんから』と宣言した行為は、不審者情報に書かれていた通り彼女にとっては意味不明な行為であって、当然ながら私の意図は何一つ伝わっていなかったのです。


私は何故、その程度のことすら気付かなかったのでしょうか? 


『恋をすると人は盲目になるとは言いますが、これもその一種なのでしょうか……?』


日曜日、いつもの様に彼の家に向かう私は、少し気分が沈んでいました。このところ、失敗ばかりしているような気がします。何だか自分が自分じゃないような気さえします。


『このような事で私は本当に目的を果たせるのでしょうか……?


いえいえ! そんな弱気ではダメです! こういう時こそ毅然とした態度で……!』


とは思うのですが、正直不安はあります。


『今のやり方が果たして正しいのかどうか……』


…いえ、やっぱりこんなことでは駄目です!


『そうです! 失敗は経験として活かせばよいだけです。この程度で自分に負けてどうするんですか!』


彼の家の近くでタクシーを降り、そう自分に言い聞かせて気持ちを奮い立たせます。それにこれから彼に会うんですから、暗い顔は見せられません。


『彼にとって私は目指すべき高みでないと駄目なのです! 落ち込んでなんかいられません』


彼の家に着き、私は再度気持ちを引き締めてチャイムを押しました。


なのに、「は~い」と家の中から聞こえてきた声は、彼のものではなくイチコの声だったのです。てっきり彼の声が聞けるものと思っていた私は、少なからず動揺しました。そして扉を開けて私を出迎えたのも、彼ではなくイチコでした。


「あの…ヒロ坊くんは…?」


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