第3話 過食3

 「お嬢様の部屋専用トイレの便座が割れています。」

 メイドが執事の下塚に報告に来た。

 「ドレスもサイズアップしているので、洋裁専門の部屋では24時間体制で作業を進めています。」

 洋裁専門デザイナーが下塚の前に近づきそう話す。

 「調理ですが、いくら低カロリーかさ増しといいましても、あれほどの食欲では意味がありません…」

 料理長がコック帽を手に持ち苦しい表情をにじませている。

 「オイルマッサージですが、日に1回では、足りないように思います。」

 エステティシャンが声を発した。

 「ウォーキングはもう少し増やした方がいいですね。」

 専属トレーナーがパソコンを見ながら提案した。

 下塚は、深いため息をついた後に静かに話した。

 「皆さんまず落ち着きましょう。そこのテーブルで座って話し合いましょう。すまないが、ここにコーヒーを人数分持って来てくれますか?」

 メイドがコーヒー用意のため部屋を出ていく。皆が長テーブルに座ると下塚が話し合いを始める。

 「まず料理のことですが、そこまで料理長を悩ませていたとはわかりませんでした。申し訳ない。今後は管理栄養士を呼んで協力体制を作ります。」

 「あの…」

 トレーナーが手を挙げる。

 「何ですか?」

 「横から口をはさんて申し訳ないですが、例えばダイエットフードとか、食べ物や飲み物に混ぜるような方法はとれませんか?」

 「…それは出来ません。お嬢様には極力自然で手作りのものを口にして頂くのが基本です。また、断りもなく食べ物に下剤の類いを混入させるというのは道徳心にそれてしまう。」

 「わかりました。」

 「料理長のご意見はありますか?」

 「…食のプロとして体重をさげられずここまで来てしまったことに責任を感じています。私は辞職しようと思っていました。」

 「それはいけません、料理長!貴方の責任ではありません。思い悩まないで欲しい。貴方はこれまで50年間もこのお屋敷の料理を作って来られているのですから…」

 「料理人のプライドが許さんのですよ!」

 「とにかく辞職は行き過ぎです。もう一度考え直してみて欲しい。」

 「…」

 料理長との話が終わる頃メイドがコーヒーを運んできた。

 皆がそれぞれコーヒーを飲み一息つくと、下塚は話し合いを続ける。

 「一月後に御屋敷で社交ダンスパーティーが行われることになっています。上手くそれを理由にしてお嬢様には社交ダンスと運動を今以上に励んで頂きましょう。エステマッサージも、1日2回に増やし、今後御屋敷に岩盤浴やサウナも作り、血行を良くして汗をかいて頂けば少しは効果は出るのではないでしょうか?」

 またトレーナーが手を挙げる。

 「肉体的なものはそれでいいと思いますが、精神的な癒しが少ないように感じます。カウンセリングとかヨガ瞑想のようなものはどうでしょうか?」

 「確かに精神面では癒せるものが少ないですね。ただお嬢様はご自身が悩んでいると一切相談なされない。本人が望まないのにカウンセリングは出来ません。ただ、癒しの音楽をBGMとしてかけるのはいいかもしれません。」

 話し合いは長時間に及んだが、どうにかまとまりまた話し合いは集まってしていくことになった。

 


 

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