第5話 復活のサンタクロース

 「きゃぁぁぁぁぁ!」

 悲鳴が夜空に響き渡った。雪織まゆは絶叫マシーンが苦手である。にもかかわらず、そんな遊具が可愛く思えるほどの高所をとんでもない速度で飛ぶサンタクロースの橇の上に彼女はいたのだった。

 「まゆちゃん、絶対に落っこちる心配はないし、橇の上自体は強風はないし、その、落ち着いて」

 「落ち着けますか! トナカイさんは可愛いし、妖精さん?もピカキラ綺麗だし、この上なく貴重な体験をしているとわかっているけれど、「じゃあ、行こう」の一言でとんでもなく高い場所を飛ばれて怖くないはずがないじゃないですかー!」

 「夜景も綺麗でお薦めなんだけどね」

 「綺麗だけど、怖いのはまた別です……」

 叫び疲れて声を落とした彼女を見ながらサンタクロースはにこにこと笑っていた。彼女のお陰でいざプレゼント配りと思ったが、しっかり魔法を使ってゲームが欲しいの陰に隠れた本当の望みに適したプレゼントにしたいと思い立った。今からでは時間が足りないと困ったサンタクロースの目に飛び込んできたのは少しだけ下手なプレゼントの包装。機転を利かせて孫が替えてくれていたのだ。なんて嬉しい夜なんだ。

 「さぁ、まゆちゃんの降りる時間だ」

 急降下した橇に当然の如く最大の悲鳴があがり、次の瞬間、またサンタクロースを乗せた橇は軽やかに空へ戻っていったのだった。

 「メリークリスマス!」

 朗々とした声が響いて、いつの間にかどこかの歩道に立っていたまゆは茫然と空を見上げた。そして、くすくすと笑いだす。なんてすごい体験をしたクリスマスなんだろう。誰にも信じてもらえないだろうけど。

 「まゆ?」

 「かな! え、なんで」

 「ここ私の家だし、なんではこっちのセリフ。なんかすごい悲鳴が聞こえたから出てみたんだけど。上から降ってきた?」

 まゆは少し迷って悪戯っぽい笑みを浮かべた。

 「サンタクロースが送ってくれたのよ」

 「……へぇ、さすがサンタクロース。逢いたいと思っていた」

 「! 私も。でも忙しいかなって誘うの諦めちゃってたの」

 「同じく。やるな。サンタ」

 「すごいね」

 「よし、詳しい話も聞きたいから遊びに行こう。家は散らかっているから」

 「どこ行こうね」

 逢いたいと思って行動できなかったことも見抜いてサンタクロースはまゆを友人の家まで送ってくれたのだ。そして、否定せずに受け入れてくれる相手であることに深い幸せを噛みしめる。まゆはもう1度空を見上げて微笑んだ。


 今年のサンタクロースは小さな奇跡をたくさん起こした。壊れてしまったお気に入りを元通りにしたり、失くしものを見つけてあげたり、形あるプレゼントもしっかり納得できるその子達が「本当に欲しいもの」 サンタクロースが願うのは「この世に生きる人たちの笑顔」

 遅くなった分、超特急のプレゼント配り。楽しそうな笑い声とにぎやかな鈴の音がクリスマスの夜に響き渡る。メリークリスマス、メリークリスマス。君の笑顔を祈っているよ――。

 

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