第4話 サンタクロースの存在意義

 きちんと仕事をしてくれただろうかと心配ばかりしていたけれどサンタクロースの孫は目に見えないプレゼントを届ける対象にもちゃんと気を配っていてくれたのでした。少々イレギュラー対応でしたが。

 「それは良かった。ちょっと乱暴だったようだね?」

 「あー、はい。ドスンですからね。でも、疑っちゃったんだから仕方ないかなって。まさに「信じろ!」って怒られた感じ。ふふ。…………だから、なんですよね。今、逢いたいのは」

 「!」

 しあわせそうな顔をしていたから、その顔の落差は大きく感じた。寂しそうで、哀しそうで、苦しそうだった。

 「クリスマスって、そういう日だって思うんですよ。サンタさんが来ない年齢になっても、もらった優しさを自分で誰かにあげたり、ダイエット中でもケーキ食べれるような、ちょっとうれしい日。でも、最近はなんだか灯るような優しさが、あったかいものが感じないっていうか、世の中が冷たいって感じるからかもしれないけれど、だったらなおさら……いてほしいじゃないですか。ちょっと不可思議な、優しい何かが自分を見守ってくれているんだって、信じたいじゃないですか。いてほしいよ、サンタさん……」


 ぽろり、と彼女の目から涙が零れた。落ちた雫は地面に届く間際にうっすらと凍った。このままでは彼女が凍ってしまう。焦りと同時にサンタクロースは泣き笑いをしていた。大人になっても信じてくれている存在はいるじゃないか。

 「ああ、そうだな。本当に、そうだ」

 ぶわりと展開した魔法は控えめに、でも強くサンタクロースを信じている子どもや大人の声を運んでくる。自分は人の笑顔が見たくてサンタクロースになったのではなかったか。クリスマスにこんなに寒い場所で泣かせているなんて、本当にサンタクロース失格だ。

 「……まゆちゃん」

 「はい。え? なんで私の名前」

 「雪織まゆちゃん。君の願いを叶えるよ」

 「へ? え、えぇぇぇぇぇ!?」

 雲が割れて強い月明かりが公園を照らし、力強く規則正しい鈴の音が近付いてくる。そちらを見た彼女は幼い頃に見たシルエットがだんだん大きくなってきたことに気付いて素っ頓狂な声をあげた。ザザーっと音を立てて滑りこんできた6頭のトナカイと橇にサンタクロースは軽く手を挙げて応える。と同時に、橇から飛び出してきた妖精たちが光を飛ばしサンタクロースの正装、あの赤い服に早変わりした。それを見た彼女は手に持っていた鈴を落とした。トナカイの1頭が咥えて拾うと頭突きをして訴える。

 「あ、ありがと……えっと、サンタクロース?」

 「そうだよ、僕がサンタクロースだ。君が思い出させてくれた。笑顔を願い、夢と希望を灯すこと、それが僕の存在意義。ごめんね、遅くなって」

 「よ、かった……この世界に希望はある。私、また信じていけるよ……!」

 あたたかい涙だった。もう、凍らない。サンタクロースが現れたお陰で彼女の心に積もっていた冷たいものが溶けた。祝福するようにトナカイが首を揺らして鈴を鳴らし、妖精たちが2人の周りを飛び回る。

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