第3話 サンタクロースの想い出

 「いい大人が、まだ信じているなんて……おかしいよね」

 「そんなことはない!」

 消え入りそうな声に思わず上げたサンタクロースの大声に彼女はびくりと身を竦めた。慌てて片手を立てて謝る。そして、悪戯っぽい顔をしてコートの中に片手を入れ、ひょいっと熱々の缶ココアを取り出して笑う。きょとんとして、ぱぁっと明るい笑顔が弾けた。

 「手品? でもすごい!」

 「どうぞ」

 「うれしいけど、おじいさんは……」

 「ほい。僕は珈琲だ」

 「缶、あつあつだし……好きな飲み物だし、すごいなー、魔法みたい」

 うれしそうな顔を見てサンタクロースは目を細めた。もちろんこれは魔法だ。サンタクロースは何個かの魔法を使える。すべてに共通して言えるのは誰かを笑顔にするための魔法ということ。久しぶりに使ったような気がします。

 「……私ね、小さい頃、空を飛んでいるサンタさんを見たことがあるんだ。月が綺麗で、シルエットがくっきりしていて、すごくドキドキした」

 「そうか、ドキドキしたか」

 「うん」

 もちろん、覚えている。空を飛んでいたってわかるのだ。自分が見られたことは。星が好きな子でお母さんとよく見上げていた。サンタクロースは自分を見た彼女の目が冬の星のきらめきが負けるくらいにキラキラしていたことを昨日のことのように思い出せた。

 「なんで欲しいものがわかるんだろうっていつも不思議で、だいぶ大きくなってもクリスマスにはうれしいことがあって、それもプレゼントだって思っていたんだぁ……」

 「お嬢さんのような子がいるとサンタクロースはうれしいだろうね」

 「かな?」

 「ああ、きっと」

 「だからかな。あのね、おじいさん! 私、社会人になってからプレゼントもらったことがあるの! ラジカセ!」

 「ほう?」

 覚えがなかったサンタクロースは目を丸くしつつ、話の続きを促した。

 「あれは20歳くらいだったかな。珍しくクリスマスにいいことがなくて、ちょうど私も落ち込んでいたの。そう、そのときよ。サンタさんはいないのかなって思っちゃったの。そうしたら、27日、2日ずれよ? 部屋に降ったの」

 「プレゼントが?」

 「そう。一生忘れられない。父さんと母さんは1階にいて、私だけ2階にいて。部屋から出て階段を降りようとしたら、ドスンって大きな音がしてびっくりして部屋に戻ったら……大きな包みがあったの。両親もびっくり」

 サンタクロースは思わず空を仰いだ。たった1度。今まで仕事ができなかった年がある。外すわけにはいかないと拝み倒して孫に行ってもらったのだ。サンタクロースの仕事は古いだの、面倒だの散々悪態をつかれた。

 「音楽、聴きたかったからうれしくてね。なにより、やっぱりサンタさんはいるんだなって、安心して、また頑張れたんだよ」

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