第2話 サンタクロースを呼ぶ鈴
空はどんよりと曇っていました。北風でしょうか。吹き付ける風から逃げるように足早に行く人の姿が目立ちます。サンタクロースはうつむいたまま、空と同じ色のコートの襟に首を竦めるようにして歩いていました。自分でやったことながら不揃いな髭がみっともなく思えて、いっそどこかの店で綺麗に剃ってもらおうかと考え始めた時、微かに鈴の音が聴こえました。トナカイの鈴の音ではありません。でも……妙に気になります。サンタクロースはきらびやかな大通りから外れ、音のする方へと足を向けました。どんどん人気は少なくなり、緩やかな傾斜を感じる道を歩んだ先に街灯1本に照らされた小さな公園がありました。
昔ながらの滑り台とブランコ。シーソー、『使用不可』と貼られた水飲み場。柵の向こうは地面が途切れていて切り立ったところにあるらしいと知る。
シャン、シャンシャン……シャンシャンシャン……
若い……20代後半くらいの女性が寒さで顔を真っ赤にして、鈴を鳴らしていました。肩ほどの黒髪が風に揺れている。あの子どもの頃に1度は使ったことはあるであろう持ち手を片手で握って振るリングベルだ。どこかで見たことがあるようなと思いながらサンタクロースは声をかけた。
「何をしているのかね?」
「きゃっ。……ああ、驚いた。ふふ、驚いたのはおじいさんですよね。こんな場所でよい大人が鈴を振っているんだから」
「いや、おどかしてすまない。こんなに寒いのにと気になってしまってね。それに、今日はその、クリスマス、だろう?」
「だから、ですよ。ああ、もう、気にしないで行ってください。おじいさん、風邪ひいてしまうよ」
「それはお嬢さんも一緒でしょう」
「私は……」
「なんだったら手伝うよ」
「笑うから、いいです」
優しさに甘えようとして、言葉を飲み込むようにうつむいた彼女がとても心細く見えてサンタクロースは膝をついて仰ぎ見た。ゆっくりと微笑む
「笑わないよ。お嬢さんがとても一生懸命なのは、見ていて伝わります。だから、教えてはくれませんか」
驚いたように目を丸くして、迷うように何度か口を開けては閉じて、それでもサンタクロースがにこにこと見つめているから、意を決したように彼女は口を開いた。
「あのね、おじいさん。笑うかもしれないけれど、私はサンタクロースに逢いたいの。それが、今年の願いなの」
「サンタ、を? それは、その、なぜ、鈴?」
狼狽えるサンタクロースを見てどう感じたか彼女はおそらくは羞恥で耳まで赤くして背を向けた。握りしめられた鈴がシャリン……と小さく鳴る。
「絵本で、読んだの。サンタさんは妖精たちとトナカイと一緒に鈴を鳴らして皆の笑顔を祈って、楽しくプレゼントを配りに降りて来るって。私は、その本が好きで、鈴を、鳴らしたら……仲間がいると思って、来てくれるんじゃないかって、思って……」
ああ、まゆちゃんだ。サンタクロースがかつてプレゼントを届けていた女の子。
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