ウィスパーギフト
よだか
第1話 いなくなったサンタクロース。
山の木々に隠れるように丸太づくりの家がありました。隣には頑丈な大きな倉庫と動物を囲む柵。その場所からは街がよく見えました。
街を見おろすと常よりもキラキラと輝く電飾と少し控えめに流されているクリスマスソングで華やいで見えます。子ども達はサンタクロースを待ち詫び、大人も童心に帰ってワクワクしているでしょうか。デパートやおもちゃ屋、ケーキ屋も賭けいれ時と活気に満ちている。それを恨めしそうに、哀しそうに見つめている人がいました。赤い服は着ていないけれどサンタクロースです。
はぁっ。大きなため息が空気を白く染めて消えました。何年前からでしょうか何よりも大好きだったこの仕事が楽しいと思えなくなってきたのは。今の世の中は便利なもので溢れています。ゲームに夢中な子の何と多いことでしょう。ゲーム以外をプレゼントするとあからさまに落胆されることが増えて、ひどい時は「サンタクロースって無能だな」と悪態をつく子までいる始末。
でも、もっと悲しいのは「サンタクロースは親が扮しているって知っているよ。だから、お金がない家にはサンタクロースは来ないの」と夢を見る子どもが減っていること。
昨日も機械的に中身がゲームが大半を占めるプレゼントをラッピングしていました。ゲームが嫌いなわけではありません。サンタクロースだってゲームは好きです。でも……望まれるままにプレゼントを渡すことに魅力を感じないのです。心からの望みなら良いのだけど、最近はなんだか違います。
「次はこれ」「もっとレアなもの」際限がありません。良いものを持っていれば優位だという風潮もなんだか好きじゃありません。—―こんな仕事、したくない。
バサッと白い塊が地面に落ちました。サンタクロースの象徴と言われている白くてフワフワの長い髭。お腹の辺りまで広がっているのがご自慢でした。それをあろうことか胸の上辺りからバッサリと切ってしまったのです。背後で様子を窺っていた妖精たちがパニックを起こしたように光を点滅させて動き回りだしました。少し離れた場所に囲われているトナカイたちも目を見開いてサンタクロースを見ています。
「もう、僕は必要ないよ」
項垂れて歩き出すサンタクロースに妖精たちは近寄れませんでした。妖精たちは信じる心を失った人には近寄れないのです。トナカイが振り向いてもらおうと地面を掻き、首についた鈴を鳴らす音にも振り向いてくれませんでした。サンタクロースは出て行ってしまったのです。
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