相談

 朝、アリシアは部屋でのんびりとコーヒーを飲みながら今日何をするか考えていた。


 するとコンコンと二回、扉がノックされる音が聞こえた。


 アリシアはこんな朝早くに人が来ることを疑問に思いながら返事をして、カップをテーブルの上に置いた。


 扉を開けるとアランが目の前にいた。




「おはよう。お姉さん」


「どうしたの? こんな朝早くに」


「相談ごと」


「相談? 良いよ」




 アランが家にやってくることなんて今までなかった。アリシアは驚いた表情の元、アランを家へ招き入れた。


 アリシアの部屋は綺麗に整えられていた。というよりも荷物が少なかった。女性の一人暮らしの部屋。そんな部屋を物珍しそうに見た後、アランは座るところが見当たらなくて、仕方なく床に座った。アリシアはアランの前に座る。




「それで何?」


「昨日のことを相談したくて」


「昨日?」




 アリシアは街の外に出たこと、ジャバウォックのことを思い浮かべる。




「もしかして街の外にまた出たいとか言いたいの?」


「ううん。街の外に出たかった理由のこと」


「理由って強くなりたいとか、そんなことじゃないの?」




 アランは首を左右に振って否定する。




「最初はそうだったけども、あの日は違ったんだ。女神様に会いたくて。だからまた同じ場所に行ったんだ」


「女神様?」


「女神様は僕に仲間を集める才能があるって言ってて。でも僕は女神様と会いたくて、仲間を集めていたんだ」


「んー?」




 アリシアはアランの言葉を整理しようと頭をひねる。


 何となく、アリシアはアランの言葉を理解する。




「何となく分かった。それで、アラン君はその女神の話を信じているんだよね?」


「信じているよ。ベルさんも…………」




 そこで、アランはベルの言葉を思い出した。




「ベルさんは言わないほうが良いっていたの忘れてた」


「良いんじゃない? 別に言っても。だって子供の言うこと、だから…………」




 子供の言うこと。言ったところで誰も信じないこと。それなのにベルは言わないほうが良いと言った。


 人を信じることが仕事でもある僧侶とは言え、子供の言うことをいちいち信じていたら、きりがない。ましてわざわざ言わないほうが良いと言うだろうか。


 まるでベルはアランの言葉を信じているように考えられる。


 何か、信用できる要素があって。




「お姉さんは信じてくれないの?」


「ううん。信じるよ。ベルさんも、多分信じるだけの要素があったみたいね。それで、それを相談して、どうするの? もしかして私に仲間になってほしいとか言いたいの?」


「うん。そうなんだ。僕の仲間になってほしい」


「仲間を集める才能があるからって言って、それだけで仲間になることなんて…………」




 アリシアの中で一つの疑問が生まれる。


 女神はどうして仲間を集める才能があるなんて子供に言ったのだろうか。仲間を集めるのは手段であって目的が何か別にあるはずだ。


 例えば、そう。




「もしかして、魔王を倒してほしいとか言われていない?」


「女神様はそう言っていたよ」


「全部理解できた」




 魔王を倒すために仲間を集める。


 仲間を集めたところで、倒すことなんて不可能に近いだろうに。でも、女神はアランに才能があると言って、魔王を倒すことができると言った。


 つまり、仲間を集めれば倒せるのだ。




「仲間を集める才能が、良く分からないけども…………」




 アリシアはため息交じりにアランに答えた。




「少し考えさせて」




 アリシアはそう言って、アランを追い返した。アランは少し寂しそうだったが、アリシアにそんな余裕はなかった。


 もしかしたら、の話。


 アランの話がすべて真実だとして、どうして女神はアランを導かないのだろうか。女神側にも何かしらの隠し事があるのではないか。


 魔王を倒すため、とかどうとか言って、本当のところはアランを使って何か悪だくみを考えているのではないか。


 そして今、女神の魔の手、魔王の魔の手からアランを守れるのはアリシアだけだ。


 アランが帰った後、アリシアは女神について調べた。アリシアが持つ本は数冊程度だが、そのうちの一冊に女神について書かれた本が偶然にもあった。ただ、その本程度では得られる情報は限られている。


 ベルに聞いた方が早いだろう。


 そう思って、アリシアは何時もの恰好に着替えた。アランに声をかけることも考えたが、追い返した手前、申し訳なく、教会へ一人で向かった。


 教会に入ると中は昨日と変わらない。数人の信者が手を合わせてお祈りをしている。様々な僧侶が行き来する。ただベルの姿は見当たらない。


 アリシアはベルを探して、辺りを見渡す。


 そんな行為は一見不自然で、一人の僧侶がアリシアに尋ねた。




「誰かお探しですか?」


「ベルさん、いませんか?」


「ベルでしたら、あちらの書庫で朝から調べものをされていますよ」


「そうですか。ありがとうございます」




 アリシアはそうお礼を言って、ベルがいる書庫へ向かった。


 教会の横に増設された書庫は教会よりも少し綺麗に見える。アリシアの数倍高い本棚がいくつも向かい合い、その中に様々な本が収められている。


 アリシアはベルを探す。


 書庫の奥に幾つか椅子があり、そのうちの一つに椅子に座って真剣なまなざしで本を読むベルの姿が見えた。


 アリシアはそんなベルにこっそりと近づく。ベルは目の前にいるアリシアにも気づかないほど真剣に本を読んでいた。




「女神について調べもの?」




 アリシアがそう話しかけると驚いたようにベルは顔を上げた。




「あなたは、確か、昨日アラン君と一緒に来た方ですね」


「アリシアよ」


「アリシアさん。先ほど、女神についてどうとか、僧侶である私が女神について調べることが不思議ですか?」


「否定しないってことは、女神について調べていたのね」


「ええ、そうです」




 アリシアは頷くベルに意地悪そうな表情で聞いた。




「それは昨日、アラン君から女神について聞いたから?」

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大魔王!皆で戦えば怖くない! PIGPIG @xPIGPIGx

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