34,茅ヶ崎の浜

 結局、ハンバーグランチの後にパフェを食べて脂肪を蓄えたわたしたちはそれを燃焼すべく、ファミレスを出て壁が青く塗られ、ほんわかした白くてまるいキャラクターのイラストや小児の手形があしらわれた地下道から国道134号線をくぐり抜け、サザンビーチに出た。


「このCの形をしたモニュメントが、茅ヶ崎の象徴の一つで、もう一つは、沖合に浮かぶあの烏帽子岩です」


「ああ、ほんとだ、小さい岩が顔出してる」


「2キロくらい離れているので小さく見えるんですけど、けっこう大きいんですよ」


 茅ヶ崎を象徴するモニュメント『茅ヶ崎サザンC』の前で、わたしたちは記念撮影をするでもなく沖合の烏帽子岩を眺めている。このサザンCを考案したのは当時小学校低学年の男の子らしい。ランドルト環の切れ目に立って『O』をつくると縁結びのご利益があるとか。


 わたしはずっと茅ヶ崎に住んでいるけれど、そのようなことをする度胸がない。


 江ノ島や鎌倉のような、これといった観光スポットは思い浮かばない我が街、茅ヶ崎。だからこそ多くの人が押し寄せずある程度は静かな環境が保たれている。


 特に観光スポットもないので茅ヶ崎サザンCの目の前にある自販機でサイダーを買って東の江ノ島方面へ歩く。


「ふむふむ、ここには鳥居と漁船みたいなのがあって、松林がずっと続いてる……」


 熱心に写真を撮ったりメモを取る雲雀沢さん。


 一旦海岸線から離れ、国民的バンド、サザンオールスターズのライブ会場としても知られる茅ヶ崎公園野球場なども見て回った。


 再び海岸に戻り、砂浜の波打ち際を歩く。


 江ノ島、鎌倉周辺のようにオタク心をくすぐるようなものは特になく、互いにあまり開口せず歩く。自分と似た人間と歩くのがこんなに気まずいとは。わたしも周囲にこういう思いをさせているのかな。


 波やカラス、ハトなどを目で追いながら気まずさを紛らわせ、東海岸のトイレ前の砂浜で雲雀沢さんが立ち止まり、後ろへ振り返った。


「ここ、砂浜が広いですね」


 江ノ島を背に、富士を目交まなかいに海風に吹かれ、さらさら髪や衣服を靡かせる彼女とわたし。


「え、そうかな」


「よくアニメに出てくる鎌倉のほうの海岸と比べるとかなり」


「ああ、それは確かに。鎌倉は国道から海面までの距離が短いから、電車から見ると映えるんですよね。逆に茅ヶ崎は鎌倉ほど浜が侵食されてないから開放的かも」


 盲点だった。確かに茅ヶ崎の浜は多くのテレビ番組やアニメ作品に登場する鎌倉の海岸と比べて面積が数倍広い。加えて人が少ないからパーソナルスペースが保たれる。茅ヶ崎の特徴として覚えておこう。

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森崎夢叶の18きっぷ おじぃ @oji113

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