22,独りの時間
ゴオオオオオオ……。
エアコンの音が響く暗い部屋。
大きなベッドが2つ並び、わたしと美奈ちゃんがそこで寝ている。な、なんと舞ちゃんは畳に敷かれた布団に寝ている。わたしが布団でと遠慮したけど、舞ちゃんは「畳の香りを感じて寝たい」と言って譲らなかった。布団だって悪くはないけど大きいベッドで寝た罪悪感はある。
外はまだ暗い。枕元に置いたサイレントモードのスマホを見た。5時半。
うーん、ちょっと朝風呂でも行ってくるか。普段寝不足だからゆっくり眠るつもりだったけど。
のっそり起き上がったわたしは、財布とスマホを持って部屋を出た。眠るふたりを残して……。
物音を立てないようそっと扉を閉めて、そろりそろりと廊下を歩きエレベーターに乗り込んだ。
朝は女風呂と男風呂が入れ替わるようで、昨夜とは反対側の、エレベーターに近い浴場へ。エレベーターの中からも見えたけど、脱衣場の前は渓谷のような吹き抜けのオブジェになっている。見上げると圧巻。岩がぎっしり、五重塔のような気高い灯籠もある。
脱衣場も浴場も、ほかに誰もいない。
やった、貸切状態だ。
まずはシャワーでからだに纏う穢れを祓い、ボコボコと勢い良く湯が湧いている大浴槽に浸かった。露天風呂もいいけど、寒くなくて大きなお風呂を独占できる内湯もいいねぇ。
ああ、熱くもなくぬるくもなく、ちょうど良い湯加減。
飯坂温泉の湯は熱い。しかしここは奥飯坂の
泉質は飯坂、穴原いずれもアルカリ性単純泉。
効能は、ストレス、疲労や病後の回復、切り傷、動脈硬化など。
また、
ゴオゴオと湧く湯の音と、換気装置の音。人の声も都会の喧騒もない、静寂の時間。早起きは苦手だけど、早朝の静寂はちょっと好き。
たまには独りの時間も必要だね。
孤独の時間は山ほどあっても、独りになる時間はほとんどない。
無邪気を装ってとぼけたように振る舞う普段のわたし。本心ではないそれがデフォルトになって、自己が封殺されている。
『ほんとうの自分』は状況によって変わるけど、他者が直接的に干渉しない環境下での振る舞いは大方それである。
嵐が近付いて急いで家の補強をするわたしも、夏休みの最終日に宿題が大量に残っているのに手を動かさないわたしも、どちらもほんとうのわたし。急ぐわたしと急がないわたし。
だがそれに矛盾はない。
前者は身に危険が及ぶから急ぐ。後者は及ばないから急がない。わたしの場合、後者に手を付ける動機が発生するのは、教職者や親から怒られたくない故の強迫観念。これは自ら望んだわたしでの姿ではない。
「は~あ……」
他者との関わりは面倒だらけだ。
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