23,滑り台で遊ぶアラサー女 in 福島飯坂

 朝食後に宿泊代金等の支払いを地域応援型キャッシュレス決済で済ませ、10時少し前に客室を後にした。


 10時発の送迎車は満員、急いでいないわたしたちはガラス張りのロビーで崖を眼間まなかいにホットコーヒーを吸い上げながら、片手ではこの旅館の社長イチオシのバニラソフトクリームをぺろぺろ。適度にやわらかく座り心地の良い椅子。お茶類やソフトクリームをおかわりしながら、あと2時間くらい寛いでも退屈しないと思う。


 名残惜しくも送迎車で飯坂温泉駅まで送ってもらい、まだ帰るには早いので周辺を散策する。


 この街がいつか、小説の題材になるかもしれない。


 わたしの作品は基本的には茅ヶ崎を含む湘南地区を舞台にしているけれど、それだけでは描けるものが限られてくる。


 せっかく普段来ない街、つまりネタの宝庫にいるのだから、クリエイターとしては取材しない手はない。


 街の雰囲気、住民の人相、民度、その他諸々。これをこの街を舞台にした物語に反映するか、ファンタジー世界にするかなどは未定。


 飯坂温泉駅前に着いて送迎車を降りた。鈍色の空からちらちらと舞う粉雪。摺上川を背に動じない松尾芭蕉の銅像。


「さて、これからどうしようか」


 飯坂温泉の見どころといえば、駅から徒歩3分の、江戸情緒漂う中心街など、主な名物はラヂウム玉子(温泉で茹でた半熟玉子)と純米吟醸酒『摺上川』、円盤餃子。


 効率的に巡るため順序立てをした。まずは摺上川沿いを先ほどまでいた旅館方面へ歩き、歩道のある橋を渡って摺上川の対岸へ。


 交差点の横断歩道を渡ってスイッチバック式に急勾配を10分ほど上がると、福島の街を一望できる愛宕山あたごやまの頂上に到着。


「へーえ、いい景色だね。ちょっと歩き疲れたけど」


「意外と建物がぎっしりあるんだね」


 美奈ちゃんと舞ちゃんが街を見回す。わたしたちの前、腹の高さには景色を解説するイラスト付きの案内板がある。


 福島市は全方位を山に囲まれているものの市街地は広範囲に亘る。田舎のイメージが強い福島の栄えぶりに舞ちゃんは少し驚いたみたい。


 数分間景色を堪能し、背後に賽銭を入れられない神社があるので参拝。


 三人揃って二礼二拍手一礼、合掌して、左手を少し上へスライド。


 こんにちは神様。今回はお友だちを連れて来ました。温泉はほんとうに肩凝りが楽になるから不思議です。また来ます。


 神様にメッセージを送り、引き返すではなく、この先も続いている道を下って市街に戻った。すぐ下に遊具のある小さな公園がある。以前ひとりで来たときはここの滑り台で遊んで帰った。もちろん当時もアラサー。


 わたしも、舞ちゃんも美奈ちゃんもスマホに飯坂の景色を収め、資料や思い出を記録している。


 下山したわたしたちは近くの店舗でラヂウム玉子を買い足し(旅館でも買った)、酒屋さんで『摺上川』を購入、夜の街、飯坂では貴重な昼間に営業している食堂で、麺がつるつるして喉越し良い飯坂ラーメンと、シャキシャキした円盤餃子を堪能。


 お腹いっぱいになったところで中心街のお茶屋さんに寄り、隠れ名物『樹麗茶じゅれいちゃ』を購入。


 そろそろ出発の頃合い。


 江戸情緒漂う街を何度も振り返りながら、街を後にした。


 電車のドアが閉まるチャイムに、胸がキュンと締まった。

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