14,イラストレーター決定!
ドキドキしながら待つこと半日、雲雀沢さんから再びメールが入った。ベランダから見る夕陽は南西の伊豆半島に沈もうとしていた。みっちり詰まった建物が邪魔してよく見えないけど、季節ごとの陽が沈む方角くらいはわかる。
『まるたんやんまさん、ぜひお引き受けしたいとのことでした! 表紙イラストと本文中のどの場面に挿絵をつけるか、相談していきましょう!』
ほおっ! まるたんやんまさんからオッケーきた! 早くも絵が出来上がるのが楽しみでたまらない!
話は後日進めるというので、私は『Five Lives!』の続きを執筆。書籍化の発表はまだだけど、続きを待ってくれている数人の読者に向けて物語を綴る。
いくらか書いて寝て、仕事始めの日を迎えた。現実は、忘れたころにやってくる。忘れなくてもやってくる。
「あぁ、帰りたい……」
夜明け前の空は瑠璃色な5時半。目覚めたわたしの第一声。
正月休みが終わり、きょうからまた出社。
ねぇ、休み‘明け’なんて言葉を発したの、誰? 明けじゃないでしょ、メンタルがどっぷり海底に沈む暗黒の
悶々としながらのっそり起き上がり、洗面所で歯磨きと洗顔。部屋に戻って軽くメイクをして、昨晩つくって冷蔵庫に入れておいた梅、昆布のおにぎりをインスタントしじみ汁、緑茶と共にいただく。朝茶はその日の難逃れ。
なお、朝はサンドイッチで優雅に、とかやってると、わたしの仕事は腹が持たん。
「ふは~」
味噌汁をすすって一息。少し薄めに淹れた緑茶も甘味が滲んで美味しい。
そんないつもの朝を過ごし、そろそろ陽が昇る6時45分に家を出た。母はまだ眠りの中。
バスに乗って駅に到着。一段一人乗りの小さなエスカレーターに乗ってコンコースに上がり、人混みに紛れてパスを改札機にタッチ。
ホームに降り立ち、電車を待つ。特急ホームを挟んだ向こう側の相模線ホームの端には、烏帽子岩と腕木式信号機の模造品が設置されている。
まもなく視界の右側から相模線の電車が到着すると、降りた人々が階段やエスカレーターを駆け上がり、こちらの東海道線ホームに押し寄せてきた。まるで何かに追われているよう。時間という見えない敵に追われているんだ。東海道線上りは3分間隔で来るけど、この先での乗り換えの都合や単純なせっかち、1分でも早く職場や学校に着いて仕事、勉学、部活などに取り組みたいなど事情は様々。でも駆け込み乗車は遅延や人身事故だけじゃなくて、ドア故障の原因にもなるから検修員の立場としてもやめてほしい。
駆け込み乗車は業務妨害だし、不正乗車は万引きと同じだけど、鉄道になると何故か気軽に犯罪に及ぶ人が多い。
悶々とした心持ちで
この電車に乗っている人々の多くはきっといま憂鬱だろう。
ふと荷棚の左、壁を見上げて車両番号を確認。
あ、これ、この前わたしが削った車輪が組み込まれた車両だ。
寸分の狂いなく綺麗に削ったなぁ。三角か四角、いや、せめて六角形に削っておけば車両は走れなくなって、いま乗っている人たちは学校や職場に行かなくて済んだのかな。ごめんよぉ、わたしが綺麗に削ったばかりに……。
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