13,書籍化打診

『はじめまして。マリンビュー文庫の雲雀沢ひばりさわ空見そらみと申します』


 雲雀沢さん、珍しい苗字だなあ。


『この度、もりさきゆめか様の『Five Lives!』を拝読させていただき、ぜひマリンビュー文庫にて書籍化させていただきたいと思い、ご連絡させていただきました。ご検討の上、お返事頂けましたら幸いです』


 おお、おおお……。ほ、ほんとに書籍化……?


 うれしい、うれしいけど、鳴かず飛ばずのウェブ作家が急に書籍化なんて、ほんとかなあ。この話は本当だとしても、後でやっぱりキャンセルとかなったら清水きよみずの舞台から突き落とされたようなもんだよ。


 マリンビュー文庫は大手出版社の中堅レーベル。女の子が活躍する作品が多い。コミカライズするなら中高生以上向けの少女誌か、4コマ系漫画誌、もしくはオタクが好む美少女誌が向いている印象。


 そんなマリンビュー文庫さんからのせっかくのご依頼、受けましょう。ということでさっそく書籍化の依頼を受けたい旨の返信をした。


 しかしマリンビュー文庫さん、正月3ヶ日に書籍化打診なんてがんばりますなぁ。ちゃんと代休取れるのかなぁ。


 翌日の昼、新しいメッセージが来た。今度はキャラクターデザインや挿絵を担当するイラストレーターの指定についてだ。


「ふーむ」


 特に推しているイラストレーターさんはいないけど、私のイメージに合った絵を描いてくれる人がいいなあ。といってもなかなか思いつかない。


 イラストといえば、猫島くんはイラストレーターだけど、大人びた雰囲気のイラストを描くから『Five Lives!』のイメージとは異なる。純文学を書いたときにはぜひ猫島くんにお願いしたい。


 出版社の人にイラストレーターさんを探してもらう手もあるけど、まずは自分で探してみよう。


 ということで、イラスト掲載サイトを漁ってみた。


 あ、このイラスト、イメージに近いかも。


 大き過ぎず小さ過ぎない眼、シャープでもふくよかでもないミドルな輪郭、主張し過ぎない胸のふくらみ。つまるところ、中肉中背でバランスの取れた体型かつ萌えの色もあるキャラクターデザイン。


 ハンドルネームは『まるたんやんま』。


 マルタンヤンマは複眼がトルコ石のように碧く美しい大型のトンボ。茅ヶ崎にも棲息している。美しい絵を描きたいという想いを込めて付けた名前だろうか。幸せを求める三十路女、森崎夢叶、幸せのトンボを語る。どこにいるんだろうね、幸せのトンボ。あ、ここにいた。書籍化の打診なんて、幸せなことじゃん。ついつい無いものねだりでほかの幸せに目を向けてしまうけど、これも立派な幸せの一つ。


 まるたんやんまさんにイラストをお願いできないか、さっそく雲雀沢さんにメールで相談してみよう。


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