5,フォロワーが増えた!
「ふわ~あ、朝だ~」
回復体位でスマホの画面を灯す。10時23分。
朝だよ、まだ朝だよ。
カーテンを閉じた自室。壁際のベッドから立ち上がり、東側の窓のカーテンを開けた。回れ90度。数歩進んで手を伸ばし、ベランダのカーテンを開けた。
「ううっ、まぶしいっ」
冬の低い陽光がびしゃっと射し込んできて、瞬時に閉じた瞼を透過。視界が赤白い。
年末年始の連休は、朝寝坊し放題。普段は5時起きで睡眠5時間弱なのと、会社や通勤でストレスフルな日々を送っているから、その反動で休みの日はなかなか起きられない。心身ともにハードな日々を送っている。
ベッドに戻り、スマホで小説のPV数を確認。
お、なぜか9時台に15アクセス。
ありがとう、ありがとうございます!
続いてSNSを開くと、フォロワーが3名増えていた。よくわからない業者ではなさそうなのでフォローバック。
わたしのハンドルネームは小説の作者名、SNS共通で『もりさき ゆめか』。本名のまま。フォロー数30、フォロワー数15。フォロー制限がかからないよう、フォローバック率が低いアカウントはあまりフォローしない。片想いフォローのほとんどはアニメや企業の公式アカウント。そんな中で一気に3名もフォロワーが増えたのは、私にとってなかなか大きなこと。
スクロールして、タイムラインを眺める。
『私の拙作『異世界で✕✕で〇〇な俺のハーレム三昧な日常』、書籍化決定しました! 苦節5年、23歳、これもひとえに応援してくださる皆さんのおかげです!』
私の拙作……。自分の作品のことを『拙作』っていうんだよ。
タイムラインに流れて来た見知らぬユーザーの書籍化決定報告。SNSではフォローしていない人の書き込みも勝手に流れてくる。
苦節5年、23歳で書籍化かぁ。こっちは苦節12年、30歳の底辺作家だっつーの。
他人を羨んでも仕方ない。異世界チート系はわたしの作風とは異なるから、ライバル意識も芽生えない。けど、焦りはある。
SNS上で書籍化報告やPV数報告はよく見かける。わたしがゼロから2ケタPVの横ばいである一方で、何万PVも稼いでいるWeb作家は五万といる。後進ユーザーにどんどん追い越されている。彼らはどんどん夢を叶えていって、わたしは12年間ずっと、地の底を這っている。
このままじゃわたし、プロ作家デビューできない。
文筆業は1作出版できれば、PV数が多ければ生きて行ける世界ではない。けれど、多くの人の目に触れる機会がなければ、そもそも作品が売れない。売れなければ作家としての生計は立てられない。
つまるところ私はまだ、プロのリングに上がっていない。スポットライトが照らすリングの外、光の当たらないすみっこにポツンとあるサンドバッグに弱々しいジャブをしている感じ。
はて、どうしたものか……。
とりあえず朝ごはんを食べよう。
1時間後の11時45分。バターを塗ったトースト、目玉焼き、焼いた薄切りのベーコン、千切りキャベツを食したわたしは缶コーラを片手に自室に戻った。
プシュッ、じゅわじゅわじゅわじゅわ~。
タブを起こすと噴き出るカラメル色の泡。
「うーん、コーラのいい香り」
ちっちゃいとき、初めてコーラを飲む前に嗅いだこの香り。いまも昔も変わらなくて、幼少期の記憶が走馬灯のように蘇る。
かつて北口の商店街、エメロードの脇にあった茅ヶ崎市場の前にあった自販機のダイエットコーラを見上げて憧れてたなぁ、あの銀色の缶のプレミア感。缶だけにプレミア感……。あと、
コーラひとつでもいろんな経験や思い出があって、今の私があるんだなぁ。
自殺しようと思ったことも何度もあるけど、0歳から人生をやり直すとなると、けっこう大変だ。いまのそこそこ経験を積んだわたしのほうが、理想の人生に行き着きやすい。
「ぷはーっ、うまい!」
ぐーたらしながら飲むコーラは最高だね!
おや、スマホが震えた。拙作『Five Lives!』の宣伝ツイートに、今朝フォローしてくれた
『はじめまして、藤乃と申します。第1話から5話まで読みました! サマーフルーツの活躍が楽しみです! 応援しています!』
うほっ、うほっ、うほっ! ありがとうございます! さっそく返信しよう!
『はじめまして、もりさき ゆめかです。お読みいただきありがとうございます! すごく嬉しいです! 今後ともぜひ何卒どうかよろしくお願いいたします!』
感想なんていつぶりだろう? ほんとうは投稿サイトの感想欄に書いてもらえると実績になるからなお有難いけど、SNSでもすごくうれしい!
秋から投稿を開始した『Five Lives!』は、5人の女子高生がバンドを組んで、メジャーデビューを目指す青春小説。毎週1回更新で、先ほど第10話を公開した。
現在、ウェブ小説は異世界、チート、ハーレム、悪役令嬢といったジャンルがヒットしている。わたしが描いているのは現実世界の小説で、ウェブ小説のヒット路線からは外れている。加えて『Five Lives!』は週1回しか更新していない。故にアクセス数が少ないと、わたしは見ている。あとは面白さ。個人的には面白い物語を描いているつもりではいるけれど、改良の余地もあるだろう。
ちなみに前作は異世界を舞台にした冒険物語で、今作同様週1更新の割にはアクセス数、ブックマーク数、評価ポイント投入数は好調だった。ただし、ランキング上位にはとても食い込めない数値。あくまでも何作もある拙作と対比した結果でしかない。異世界モノでの超大ヒットは至難の業だ。
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