第2話 確認

 恋には、2つの種類があるそうだ。普通の恋と、嵐のような恋。


 夫と私は、多分、嵐のような恋をした。そして結婚後、私たちはどうしたって、支えあわなければいけない境遇の連続にあい、支えあって生きてきた。


 気がついたら、二人で作り上げた世界から、すっかり抜け出せなくなっている。そして、お互いが裏切ることなんて、絶対ないだろう、と思える信頼関係を築いた。


 けれど、毎日毎日平和に生きていると、夫が時折優しい言葉をかけてくれると、あるいはハグをしてくれると、それがちっとも現実的でないような気がすることもある。


 というのは、それは結婚しているからであって、つまり義務からなのかしら? と思うのだ。恋の感覚から随分と離れたところにある義務。


 だからか、私は確認したくなってしまう。


 それで時々、些細な口論のあとに、「離婚したい」とか言ってみる。そして、彼の反応をじっと観察する。夫は悲しい顔をして、「はいはい。お好きにどうぞ」と言う。悲しそうな彼を見ると、「私は、まだ好かれているんだ。信じていいんだ」と思え、満足する。


 私は、自分が不気味なことをしているな、と思う。意図のある意地悪い質問をするだなんて……。女のする行動の中で、私が一番嫌いなやつだ。


 でもだって。


 夫婦って、もう家族になってしまうから。お互いの無様なところを知っているから。ときめくなんてことは、ほぼないから……。


 夫は私の言動を見て「君は変わっているな~」と、笑いはするが、「可愛らしいな~」とは言わない。となると、私をどう思っているのだろうか、と不安になるのだ。


 こんな自分を彼が好きなのかどうか、定かではなくなる。自信が持てないので、確認として意地悪なことを言うのだ。私は、やっぱり一部ちゃっかり女なのだと、そんな時は思う。


 そんな女――私は、その逆をするときもある。


 つまり、私自身が彼を好きかどうか確かめるのだ。それは、密かにたびたび実行されている。夫と外食を一緒にしたり、出掛けるときは、「よその男」だと思って彼を観察する。


 「もしも、彼がよその男で、結婚していなかったら……」


 私は自分を、夫を知らない女だと仮定して、彼の雰囲気、髪型、洋服、言葉遣いなどをじっと観察する。そして、自分の内側を確認する。


 「好きなタイプだ! 大丈夫! まだ、私はちゃんと好きだ!」


 そう思えると、とても安心する。先日、そんなことを私は実は10年も前からしていると夫に伝えたら、笑われた。「俺、そんなことしたことないよ~!」と。


 そうなの? 確認をしないのが男なのかしら。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る