私たち夫婦について

AKARI YUNG

第1話 秘密基地

 湖に近い田舎の一軒家に引っ越して、10年になる。


 車で家の前の細い道を下り、国道に出れば、すぐに湖が見える。夕方から仕事に出掛ける私は、車窓から、毎日のように夕日が湖水を照らすのを見ることができる。その輝きは、日によって、銀色だったり黄色だったりする。とても綺麗だ。この街で気に入っている景色の1つ。


 この街は外食する場所が少ない。それだけが、引っ越してきて一番残念だったことだ。食べ歩きが好きな夫は、時々ぼやく。


 「あ~、都会ならもっと食べるところがたくさんあったのに」


 それでも、彼も私もこの場所を気に入っている。私たちの家の周りは畑や林。静か。夜空も綺麗だし、ここは、私たち二人の誰にも邪魔されない秘密基地みたいだ。


 ここでの生活は平和そのもの。


 私は、特に仕事以外なにもしない。私の日常は、夕方からのちょっとしたお仕事と、家事と、お買い物。それから夫で成り立っている。


 仕事が終わるのは、大体夜9時過ぎ。


 仕事帰り、私は、コンビニ、本屋、閉店間近のスーパーや、ドラッグストアーに寄り、用を済ませる。夜の街の方が、昼間よりも空気が穏やかに思えるので、私は、このスケジュールも気に入っている。


 この街の美味しいケーキ屋さんを2軒だけ知っている。それから、小さなイタリアンを1軒。美味しいお蕎麦屋さんも1軒。私たちは、そのどれも気に入っている。


 夫と休みの時間が合えば、一緒に食事をイタリアンかお蕎麦屋さんでするし、ちょっと特別な日にはケーキ屋さんに立ち寄って、小さなホールケーキを買うことがある。


 でも、一番気に入っているのは、海辺近くの海浜公園。なんとここは、海も近いのだ。贅沢! 私も夫も海が好きだ。特に夫は海を眺めるのがすごく好き。彼の夢は、ハワイのビーチで、海を見ながら死ぬことだそうだ。


 私たちは、海浜公園に出かけて、海を眺め、それから、海岸から上がってすぐの丘の上の公園でピクニックをする。ピクニック。自然の中で、二人だけの静かなピクニック。それは幸せな時間だ。


 私は、その海浜公園に一人で出掛けることもある。広い芝生のエリアを歩く。足の裏に柔らかい土と草の反発を感じて。それから遊歩道を歩いて、夕日を見る。


 私はその芝生の広場――余計なものがなんにもない感じがすごく好きだ。「ここに引っ越してきて本当に良かった」と、その公園に行くたびに心から思う。

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