第4話
昔々、そのまた昔の、また昔。
遠い遠い昔々。
なので話は長いが、何しろ万物の始まりからなのだから気長にお付き合いいただきたい。それほどまでに遠い昔のこと。
そこに天地はなく陰陽もなく、ただ雌鶏の卵によく似た宇宙だけが、ゴミを浮かせてぼんやり漂っていた。そのぼんやりの中に現れたのが全ての始まり、
さて、これら五柱はスゴい。
天の神、通称、
ゆえに五柱が現れるや否や、浮き漂っていたゴミは互いに引き合い、くっつき合った。あれよあれよで、アレ、ソレ、ココとたちまち宇宙は固まり始める。
やがて上の、澄んだ部分が天となり、 沈むに時間がかかったゴミが星を成した。すなわち天こそが高天原で、星こそが
だが「結びの力」はそれごときでついえる貧相なものではなかった。その後も大いに働くと、高天原や芦原中津国を守るための神々を
そしてこのブームの最後に現れた神こそ、あの有名な
さてそのさい別天津神らは生まれたてのこの二柱に、一本の
「そら、下を見てみい。芦原中津国はザップンザップン水びたしの、どこが陸でどこが水かも区別のつかん、まったく泥まみれの未開地じゃ。ええか、わしはドロドロの田舎なんぞ気に食わん。それ、この矛で技術提供してやるから、矛から
もうお察しの通り、神の世はこれで結構、縦社会だった。この辞令がたとえ芦原の野の先鋭部隊、つまるところ僻地開拓というドロまみれのヨゴレ仕事だったとしても、二柱はありがたく矛を受け取る。命を果たすべく従事することとなったのだった。
さっそく
見下ろして、あなたがステキと言ったから、今日は、国造り記念日。
二柱はオノコロ島へ「ここが国の始まりぞ」と定礎の柱を打ち立てることにする。名は
さあ、仕事がうまく運べば仲間意識も高まるものだ。二柱はある日、国中之柱を待ち合わせの場所と気分転換にデートの約束なんぞを取り交わした。
しかしながら当日、どこで何をしているのやら伊邪那岐神はいっこうに姿を現さない。時間を間違えたかと伊邪那美神が気をもめば何のことはない、ぼうっと待ち続ける伊邪那岐神の姿は柱の裏にあった。思えばこの時から伊邪那岐神はどこか頼りない男だったのである。ともかく、待ちぼうける伊邪那岐神へ伊邪那美神は柱の影から声をかけた。
「あ、探したんだよ。へぇ、今日、すごくかっこいいじゃん。ねね、さっそくどこかいいトコ連れてってよ」
ならいつもの作業着とは違い、一張羅を羽織った伊邪那岐神は振り返る。
「おっと、そこにいたのか。へえ、今日はセクシーじゃん。ようし、ならいいトコ知ってるけど、行っちゃう?」
僻地ゆえたいした遊興施設があるわけでもなし。「トコ」が「床」だったとしてもいたしかたなしだろう。別天津神のチョメチョメはこのことも含んでいたなら、二柱はたちまち目出度く結婚とあいなったのだった。
が、生まれてきたのはあろうことか、足の立たない
と、アドバイスを与えたのはさすが年長者、別天津神だった。どうやら人も神も男がリードせねばうまく行かぬらしい。最初、誘ったのが女の方だからいかん。別天津神はサラリと言ってのける。
仕切りなおせばたちまち二柱の間に
産まれた神はその後、高天原に残るものと、芦原の野へ下るものに別れている。下った神らは大八島運営の神、
これらが第二期、神様ブームであることはいうまでもなく、その最後に生まれたのが、いや、産まれたからこそ最後となったのが火の神、
この軻遇突智命、あり得ないことに産まれた時から燃えていた。あっぱれ産み落とした伊邪那美神はやけどを負うと
事態にうろたえたのは伊邪那岐神だろう。だいたいハナから伊邪那美神にリードされていた草食男子だ。残されてどうしていいのか分からない。それは怒りにかられて我が子、軻遇突智命の首を払ってしまうほどの狼狽いぶりだった。
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