声優・田中一成さんを追悼する

植原 智幸

声優・田中一成さんを追悼する

『風姿花伝』は、能の理論書であり日本最古の演劇論です。著者の世阿弥は、役者の全盛期は30代半ばであるとし、「(その時期に)極め覚りて堪能になれば、定めて天下に許され名望を得つべし」と述べています。

 一成さんは多くのアニメに出演しましたが、代表作を一つ選ぶとすれば、やはり『プラネテス』になるでしょう。バイプレーヤーというイメージが強かった一成さんが、30代半ば、最も脂が乗った時期に主役を張り、世阿弥の言う「名望」を得た作品です。私は、田中一成という役者の代表作に関われたことを、今でもうれしく思っています。

 一成さんが亡くなったとき、私は仙台で勤務していました。一成さんからもらった最後のメールには「仙台が舞台のアニメに出ているので、行きたいです。大河内一楼さんの実家もありますしね(笑)」と書いてありました。私の返信は「うまい店をリサーチしておきます!」 その約束を果たせなかったのが心のこりです。

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