第33話 恋路の果てに 2

 赤い巨人を追って地底湖へやってきた愛弓たちは血まみれの美人に会った。


『おかえり。早かったわね』


 こんな地下に人がいること、何より赤い巨人の姿が見えないことなど、疑問が無数に湧き出し、愛弓たちを襲う。誰からなにを訊けば良いのかさえ分からずにぐるぐると悩んでいると、デュオラが愛弓の口を借りて、どこか非難するように言った。


『もう、食べたんですか?』


 悪びれた様子も無く、「彼女」は意地悪く口角を上げた。


『まあね。お腹空いてたし』


 くすくすと笑う「彼女」の左耳から赤い石がきらりと輝いている。イヤリングなんかしてたっけ、と訝しんだが、理由を訊いてもまともには答えてくれないだろう、と諦めた。

 ふたりが何を言っているのか分からないが、愛弓はまず手近な所から訊くことにした。


「ねえ、デュオちゃん、この人だれ?」


 表現に迷い、言葉を探しているデュオラに代わって「彼女」が口を挟んだ。


『地球の意志、ってやつ? そんな堅苦しく考えなくていいわよ』

「神様、なんですの?」


 紅薔薇の言葉に「彼女」は声を上げて嗤った。


『あなたたちってみんな同じこと言うのね。もっと語彙を増やしなさいな』


 ちら、とデュオラを睨み、


『ちゃんと教えてあげないとだめじゃない。変な噂が立って頭の弱いひとたちがみんなここへ来ちゃうでしょ』

『そんな時間、無かったですから』


 ふたりのやりとりで紅薔薇は、「彼女」がどういう存在なのかを察知し、同時に清香から薄々感じていた焦りの根源がそこにあるのだと理解した。


「そんなことより、清ちゃんは? あの、ここに落ちた赤い巨人の中に、わたしたちと同い年の女の子と、白い鳥さんが取り込まれてるんです。知りませんか?」


 ふぅん、と酷くつまらなそうな表情を浮かべ、「彼女」は冷たく言った。


『さっきその子が言ったでしょ? あの赤いのはわたしが食べちゃったって』


 ふたりの顔が青ざめる。


「そんな!」

「か、返して下さい!」

『食べたものを返すことはできないわ』ぽん、と少し膨らんだ自分のお腹を叩き、『とっても美味しかったもの。あなた達で言えば血の滴るレアステーキみたいなものね。たっぷりの時間と、命の輝きに満ちた最高の食事。生まれて初めてよ、あんな素材食べたの』

「清ちゃんたちは食べ物じゃない!」


 ふふふ、と「彼女」は声を上げて笑った。


『甘えるな』 

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