第22話 その輝きは愛に似て 1

 紅薔薇が持っていた龍血核(りゅうけつかく)の大半は、おそらく地球に吸収された。

 いままで戦ってきた巨人たちは全て、龍血核が瓦礫を纏って出来た姿だ。

 そして地球も、おおざっぱに言えば土の、無機物の塊だ。


「答えてよ、デュオラ。どんな絶望でもいいから」


 聞いておかなければいけない。そうすることで覚悟も決まるのだから。


『龍血核は、周囲にある物質や情報を取り込んで自らの中で「意志」を形成するわ』


 うん、と頷く。


『いままでの状態を見る限りそれはもう始まってて、瓦礫の巨人たちが暴れていた理由はその「意志」が起因とみて間違いないわね』


 赤ん坊が駄々をこねているような状態だとイメージし、清香は頷く。


『取り込むシステムは、私たちがこちらの生き物に憑依するのとそう大差ないわ。だから当然、相手に自我があれば、ぐちゃぐちゃに入り交じって全然別の自我が生まれる』


 デュオラの説明が長くて回りくどいことにももう慣れた。


『地球は、星は生きてる。わたしたちが星を生命体として区分するには、あまりに大きくて長生きするものだから、実感できないかも知れないけど』

「落ちた龍血核が、地球と融合したらどうなるの」

『わからない。地球がどうしたいのか。それで全てが決まる』


 わかった、と頷いて清香は龍血核が落ちた場所をじっと見つめる。

 清香にひとつの考えが浮かぶ。

 星を壊すことは出来ない。ならば龍血核が地球に変化を起こす前に切り取ってしまえばいいのではないか。地球は大きいんだ。意見を聞くにも時間がかかるだろう、と考えるのは素人の浅知恵か、希望の持ちすぎなのか。

 ふう、と息を吐いて紅薔薇を見る。

 携帯電話で指示を飛ばしつつ、各地から情報を集めているその姿は凛々しく勇ましく、やはり同年代には見えないぐらいにきれいだ。

 ポシェットを捨てろと言ったのは自分だから、というのは後付けの理由だ。


 すごく、すごく恐い。

 でも、全部が終わったあとで春嵐丸や愛弓や、紅薔薇が笑ってるなら、それでもいいと思えた。

 そのためならなんでもやれると思う。


「ふたりとも、あたしが地下に潜って龍血核を拾ってくるから」


 思っていたよりもすんなりと言えた。


「……止めても、行かれるのですね」


 振り返った紅薔薇は、言い終えると唇をきゅっと結び、携帯電話を強く握りしめた。


「あんたはここで指揮執って。愛弓はボディガードをお願い」


 はーい、と手を挙げる愛弓でさえも、笑顔の奥には不安の色も見える。


「ご無事なお帰りを、お待ちしております」


 深くお辞儀し、上げた笑顔には不安がまるで隠せていなかった。


「なんて顔してるのよ」

「だ、だって」

「大丈夫よ。春嵐丸がいるから、そんなに無茶はしない」


 どれだけ明るく笑って見せても不安は隠しきれずに滲み出てきているが、紅薔薇は頷いて見せた。


「はい。お任せ下さいまし」

「待ってるからね!」


 ふたりの笑顔を御守りにして、清香は足下へ手刀を突き立てる。地面が爆発したかのように土砂が舞い上がり、それがきっかけになったのか、先ほど倒した巨人の瓦礫の中から、サイズこそ二メートル程度ではあるが、無数の巨人がぼろぼろと生まれ初めている。

 生まれた巨人たちは清香を標的とし、一斉に襲いかかる。


「させません!」

「いかせないんだから!」


 紅薔薇が地面すれすれを、愛弓が中空を駆け抜けて巨人と清香の間に入り込み、間欠泉のように土砂の吹き上がる穴を守る壁となった。


「お願いね!」


 穴の奥から聞こえた清香の声にふたりは頷く。


「でもなんでいつもひとりでやろうとするかな、清ちゃんはっ!」


 鼻息荒い愛弓に、紅薔薇は思わず苦笑した。

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