5 内緒話

 四栂さんはわたしが落ち着くのを待って、家まで送ってくれた。

 家が見えてきたあたりで、頭を下げる。

「ありがとうございます。」

「いえいえ、たまたま通っただけだから。」

 ……本当だろうか?

 由羽の家とは反対方向のこの場所で。病院からもそこそこに距離のあるこんな場所で、偶然に出会ってしまうことなんてあるんだろうか……?

 わたしの怪しむ様子が伝わったんだろう。四栂さんは「そうよね。」とわたしを見返す。

「実は探してたの、あなたの事。」

「え。」

 予想が的中してしまった。

「どうしてですか?」

 こんな、一度しか会ったことのない女子高生を捜す理由なんて――、

「どうしてだと思う?」

 ……影関係しか思いつかない。

 そんなことは、とうてい言い出すことなどできなかった。

「あのね。病院で会った時の事、覚えてる?」

「いえ、あんまり。」

「あなた、わたしを見て『親戚の方ですか』って言ったのよ。普通はお母さんとか、もっと近い人だと思うんじゃない?」

「それは、お母さんのことを知ってたから。」

「そんなに由羽さんと仲がいいわけじゃなさそうだったのに?」

 沈黙するわたしに、四栂さんは柔和にほほ笑む。

「あなたは知らなかったんでしょう。――あなたはね。」

 含みを持たせた言い方。

「なにが言いたいんですか……。」

「あなた、本当は柊かなえさんじゃないんでしょう?」

「……。」

 なんなんだろう、この人は。

「あなたは一体……。」

「そうね。――わたしは、この現象の始まりを知っているの。」

 始まり?

 確かに、連鎖しているとはいえ折り返しもできるし、はじまりだってあってもおかしくない。

 それにしたって。その言い方だと、誰かが意図的に始めたみたいじゃないか。

「知りたそうな顔をしてるわよ。」

「それは……そんな意味深なことを言われれば。」

「そうよねえ。」

 うまく、相手の術中にはまってしまった。

 そう言って四栂さんは手帳を取り出して、さらさらと何か書きこむ。

「これ、わたしの連絡先。話せるようになったら連絡して。」

「……はい。」

 差し出された紙を、受け取る。

 携帯の番号と、メールのアドレス。それだけ渡して、四栂さんは「じゃあ。」と歩き出す。

「――あの、最後にひとつ、いいですか。」

「なにかしら。」

「あなたは、一体何者なんですか。」

 ただの家政婦さんではない、ってことはよくわかった。でも、どうして遠夜の家でそんなことをしていたのか。それがわからない。

「そうねえ。」

 四栂さんは、暗闇の中で目を光らせた。

「今はまだ、信じてくれなくてもいいけど。わたしは魔法使いみたいなものよ。」

 さらにつけ加えて、

「あなたの御父さんの姉弟子でもあるの。」

 にっこりと笑った彼女はそれ以上何も告げず、あっさりと立ち去った。

 わたしがやっと反応できたのは、心配したかなとが家から出て来てからだった。

「……はい?」

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