兄
次の日もかなえは学校に行った。
ぼくは朝からいろいろな事を考えながら、かなえの部屋で時計の音を聞いていた。そのとき不意に、電話の音が鳴り響いた。
机の上に置いてある子機だ。一度も鳴ったところを見たことがなかったけど、ちゃんと使える物だったのか。
おそるおそる、受話器をとる。
「――もしもし?」
「ああ、かなとだけど。」
男の人の声。噂に聞くかなえのお兄さんか。
そうだよな。自分の部屋の電話なんて、内線か、そうじゃなかったら家族しか番号を知ることもないだろう。
「どうしたの?」
「どうしたの、って……。この時間に家にいるってことは、母さん、相変わらずなんだろ。」
――かなえ、お兄さんには相談してたのか!?
自分に兄弟がいないからよくわからないけど、こういうのってホイホイ相談できるものなんだな……。
「どうした?」
「う、ううん。いきなりだったからびっくりしただけ。」
そうか、とかなえと似た軽い口調でかなとは納得してくれたらしい。
それからここ最近の事を聞かれた。もちろん「ぼく」のことは話せない。かなとの質問は上京した子供を気遣う親のようで、心苦しさが残る。
「……ねえ、おにいちゃん。」
つい、言葉が出た。
「――ごめんね。」
ちょっと間が開いて、かなとの声がする。
「――は?」
「それだけ! じゃあね!」
まだ電話口から「お前まさか俺のゲームのデータ消したとかじゃ――。」と言葉が続いていたが、気にせずに電話を切った。
ふう、と息を吐く。
突然のことで驚いた……けど。
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