やりたい事
定食亭定吉
1
明日は休みなので、ぼんやりと何をするか考えていたアキラ。電車が好きで、駅員になったわけでないので、何度、退職したいと思ったかわからなかった。
「おーい、駅員さん、これやるよ!」
同じ電鉄系の掃除員のおばさんが団子を差し入れる。
「いつもありがとうございます❗」
「頑張って❗」
新人らしき二十代前半ぐらいの女子も一緒だった。女子も一緒だった。小柄ながらふくよかな感じの彼女。ぱっちり二重だった。アキラに会釈した。その姿にキュンとなったアキラ。
少しモチベーションがアップしたように業務に精を出すアキラ。
「そうじ行ってきます❗」
近々でやる仕事がなかったが、そうじ用具を持って、ホームへ行くアキラ。
「お疲れ様です!」
さっきの若い従業員にあいさつするアキラ。
「お疲れ様です」
「いろんな駅を回っているのですか?」
「そうですね」
「しかし若い人では珍しいですね。清掃員さん」
「逆にその分、気を遣わなくて気楽ですよ」
「そうですか」
「あっ、良かったら、今日、ライブするから来て下さい❗」
唐突にチケットを渡す彼女。
「ありがとうございます。近いですし、行かせてもらいます」
「では」
油を売っていると疑念されるので、ある程度、目立つゴミを拾って、駅員室に戻るアキラ。
「今日、特にやる事ないですか?」
思い付きで山本に聞くアキラ。
「別に帰りたかったら、帰っていいぞ」
「では帰らせてもらいます」
「勝手にどうぞ」
内心、微笑んだ山本。
「では、お先に失礼します」
更衣室に行き、素早く着替える。
「お疲れ様です。あれっ?この地元ですか?」
清掃員の制服に、上着を羽織った姿のA駅にいた清掃員。
「そうですね。この道を行った方ですね」
国道と県道の交差点で信号待ちする二人。
「一緒に帰りましょう」
異性に初めて言われたセリフ。舞い上がるアキラ。
「駅員さんは、電車好きですか?」
「いいえ、たまたま就活で受かったので」
「駅員さん、みんな電車好きと思ってました」
「生活のためですね。本当は別にやりたい事あったのでしょうね」
「他人事みたい。まあ、私も生活のため、駅の清掃員やってますがね」
「生活は一生続きますからね」
「今日、あなたもステージに立ちませんか?きっと、あなたのやりたい事だったかも知れませんし」
「えっ?」
「難なら、チケットもタダでいいので」
信号を渡り、話しに夢中になる二人。
「当たり前でしょう❗」
(中略)
その日の夜、アキラは清掃員の彼女とステージで共演。役目は適当にコーラス。新鮮な快感だった。しかし、これで生活出来ずなので、しばらく駅員に従事する。
やりたい事 定食亭定吉 @TeisyokuteiSadakichi
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