第2話 『精霊の森』は四国にあり!?


 まるで僕の手に反応したかのように、グラムゥの体が輝き始めた。


 ――右手の甲が熱い。

 ける様な痛みとともに、右手の甲に、剣を模した紋章が浮かび上がった。


 これが、従者契約……!?


 グラムゥみたいな最弱クラスの従者に似合わない、やたらとカッコいい演出。

 ……やはり特別な個体か、何かのイベントのスイッチなのではないだろうか。


「これで従者契約は完了したムゥ。これでグラムゥは、晴れてナギさまの従者になったのだムゥ!」


 グラムゥの言葉通り、従者契約は終わったようだ。

 右手の痛みも完全に治まっていた。そして紋章の辺りに不思議な魔力を感じる。

 体の底から力が沸き上がるような、不思議な感覚だ。


 もしかして、何か新しいスキルを獲得した?

 確認してみると、なんとスキルが一つ増えているではないか。


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 【魔剣の主】(レア度:S)

 魔犬グラムゥの主である証。

 武器種『剣』を装備している間、ステータスにグラムゥの能力が上乗せされる。


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 あ、魔犬と魔剣で掛かってたんだ。

 ……というどうでもいいことは置いといて。


 これって何気に強スキルなんじゃないか? 単純にステータスが上がるっていうのは前衛職として嬉しい。

 問題はグラムゥ自身のステータスが低いということと、馬などの乗り物を従者に出来なくなったということか。

 それでもちょっとした装備のひとつ分ぐらいのステータスは上昇しているし、むしろグラムゥの低ステータスだからこそ許されたスキルだと言える。

 乗り物については……おいおい考えることにしよう。


 やっぱり、グラムゥはただの最弱キャラじゃなかったんだ。

 これは樫宮先輩たちにも知らせなくちゃいけないな。


 そして、そろそろ樫宮先輩たちも情報収集を終えた頃だろうし、僕たちは先輩たちがいるフロアへ戻ることにした。

 そして予想通りというべきか、先輩の作業は終わっていた。

 先輩の机には、広げられた羊皮紙と、読み終わった本が積み上げられている。


 クレアはグラムゥを見て、一言。


「なにこれ……タヌキ?」


「もう、グラムゥはタヌキじゃないムゥ! れっきとした犬だムゥ!」


 ……さっきと全く同じやり取りである。

 でも、何度見ても犬には見えないのだから、しょうがないと思う。

 クレアも何となく釈然としない様子だし、やっぱりどう見てもタヌキだよなあ。


 そして、樫宮先輩はといえば。


「その紋章は……! 我が半身よ、ようやく『力』が目覚めたようだな……!」


 やはりと言うか、グラムゥよりも、僕の右手の紋章の方に食いついていた。


「ふふっ、やはりお主は我が半身に違いない! まさかほんの少し目を離した隙に、このような闇の力を身につけてくるとはな……!」


 なぜか、褒められてしまった。

 それほど『手の甲に紋章』は、厨二心に惹かれるものなのだろう。



 その後、樫宮先輩たちの成果を教えてもらった。

 羊皮紙にまとめられた情報は、主に<ユースティティア>の地理についてだ。


「まずはこの地図からだな。これが我らがいる<ユースティティア>の地図だ」


「やっぱり、日本列島そっくりですね……」


 樫宮先輩の写した地図は、記憶の中の日本地図ほぼそのままだった。

 内部の地形についてはまだ分からないが、島の輪郭だけを見れば、僕たちの知る日本列島そのものと言っていい。


 けれど樫宮先輩が言うには、このゲームの世界は確かに現実と似通ってはいるが、そっくりそのままというわけではないらしい。


 その一番の違いというのが縮尺で、この『ラプラスの庭』の世界は、現実と比べて1/2から1/3程度に縮められた世界なのだそうだ。

 これは樫宮先輩が、いくつかの文献から疑似的に導き出したもので、正確な数値ではないそうなのだが……先輩の計算なのだ、大きく外れてはいないはず。


 そして、現在僕たちがいる『不滅の塔』であるが、現実世界に当てはめると、大体『東京タワー』がある場所に相当しているのだそうだ。

 そして目的地の『精霊の森』であるが、なんと四国にあるらしい。


 東京都港区から、四国かあ……。


 これを徒歩で行くとなるとかなり無茶に感じるが、現実と比べて距離が縮んでいることと、冒険者の運動能力を計算に入れると、ゲーム内時間で約3日で到着できる計算らしい。


「もちろん、最短ルートについても調査済みだ。すべて文献通りとはいかぬだろうが、街道の状態しだいでもっと早く着くこともあるだろう」


「それじゃあ、今すぐにでも出発します?」


「そうだな……我もその意見に異論はない。クレア・ライトロード、お主はどうだ?」


 樫宮先輩は、クレアにそう訊ねる。

 クレアは少しばかり考えていたが、結論が出たようだ。


「うーん、ダンジョンにさえ入らないんだったら、大丈夫だと思う……。そうね、現状行くところもないし、いいんじゃないかしら」


「…………(こくり)」


 しおりんさんも同意見みたいだ。

 というわけで、みんなの意見が一致したところで、僕たちは『精霊の森』に出発することにした。不滅の塔を出ると、南西方面へ向かう。

 街道の跡を辿って、精霊の森のある四国を目指すプランだ。


 ――実はこのとき、精霊の森には精霊王はおらず、真反対のアステロに彼はいるのだが、そのことを僕たちは知る由もなかった。

 

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