第5話 ゲーム世界でBBQを!
僕たちは<辺境都市アステロ>の南方を、『不滅の塔』を目指して進んでいた……はずなのだが。
「ほら、あそこに
クレアが指さす方向には、小さな花畑が見える。
そこには、確かに
森の中を探し回り、ようやく見つけた植物系モンスターである。
なぜそんなことをしているのかというと、僕たちは、クレアの熱意に押し切られ、
「さあみんな、気合を入れていきましょう! ……って、どうしたのカシミール。あなたも行くのよ?」
樫宮先輩は、見るからにやる気がなさそうだ。先輩は不満そうに言う。
「む……そもそもなぜ我らまで、道を外れてまで食材探しをせねばならぬのだ」
「みんなの
「別に我は
しかし、結局先輩もクレアに押し切られてしまったらしい。
「はぁ……スケルトン、召喚」
先輩は、いかにもめんどくさそうにスケルトンを召喚する。
そして気だるげではあるが、背後から『
僕はといえば、しおりんさんと一緒に
右手に握るのは『氷魔の剣』。ちゃっかりスキルレベル上げを兼ねながら、食材探しというわけだ。最後のレベルアップ目前だったので、この戦いが終わった頃にはスキルマだろう。
しおりんさんはやはりかなりの手練れのようだ。彼女は
正直、初見のモンスターと戦うのは、結構楽しい。
どんな攻撃をしてくるのか予想しながら、攻撃の手を組み立てていく。失敗しても新しい発見があって、次の攻撃に生かす事ができる。
そうしていくうちに戦いが安定しだし、安定してきたら次は効率的に狩る方法を考え、最終的には最適解を見つけだす。
◇
「えーっと、ニンジンにたまねぎ。あと、どんぐり? へー、こんなのも落ちるんだ。……あ! 唐辛子がドロップしてる! やった、これでお肉に味付けができるわね!」
ドロップした食材を読み上げながら、クレアが一喜一憂している。
食材探しを切り上げた僕たちは、ちょうど近くに川が流れているよさげなキャンプポイントを見つけたので、そこにキャンプを張ることにしたのだ。
ウィルドさんから受け取ったキャンプアイテムをクリスタルから取り出すと、まずはテントを張ることにした。
とんがり頭の三角の形をした、いかにもテントというテントだった。こういうのって、『ワンポールテント』って言うんだっけ。割と簡単に立てられるタイプで、4人全員が入っても、まだ余裕のあるサイズのようだった。
「うむ、なかなか上手くできたのではないか?」
樫宮先輩も納得の出来のようだ。
テントだけでなく他にも、ナイフやまな板、コンロなどがついている親切設計。
……ここまでくると、MMOとは何ぞやという話になってくるけれども、むしろこれぐらい自由度のあるMMOがあってもいいのかもしれない。
「うふふ、これでようやく、お楽しみの
クレアは嬉しそうだ。
というわけで僕たちは
それぞれが各々の作業をしている中で、僕も黙々と作業をする。
けれどこの肉、どう見ても
串に野菜と刺して焼いて食べるつもりだったので、小さめに切ることにした。
……しかし、このキャンプセットのナイフ、切れ味があまり良くない。
安物っぽいし、そもそも、もっと細かい作業に向いているナイフのようだ。
さて、どうしたものか。
そう思案していると、僕はもう一つ、包丁を持っていたことを思い出す。
……今なら『
禁断の発想。しかし一応は武器扱いだけれども、包丁には違いないのだ。
切れ味についても折り紙付き。やってみる価値はある。
そして僕は、クリスタルから『
まな板の前で、『
すると……。
――突然、包丁が輝きだしたのだ!
一体何事だろう。冷静に考えよう。
これは確か、バフがついた時のエフェクトだったはず。
自身の状態を確認する。そこにあったのは……
↑調理技能+++
↑素材厳選+++
↑鮮度極限+++
何だこのバフ!? そして恐ろしいぐらい調理が早く進む。
「どうしたのだ!? 我が半身がなんだか凄いことになっているのだが!?」
隣で作業していた樫宮先輩も驚いている。
なにせ、まるで早送りしたような速さで手が勝手に動いているのだ!
『
僕は『
するとそこには、以前見た時にはなかった記述が追加されていた。
--------------------------------------
[料理の極致SSS+]
恵まれない素材にこそ、料理の神髄が発揮される。
『
--------------------------------------
こいつはネタ武器なんかじゃない。
武器としても使える一流の包丁だったんだ……!
それからしばらく僕の腕は料理を作り続けていた。
内心ひとりでに動き続ける両腕に少し恐怖感を抱きつつも――為されるがままのナギだったのであった。
◇
「おかしい、コボルトからドロップした肉がこんなに美味しいなんて……」
「ふっ、まさかキャンプで肉料理のフルコースが食べられるとはな……!」
「だから言ったでしょ、キャンプの醍醐味は
「…………(ぱくぱく)」
僕たち4人は、焚火を囲みながら、出来上がった料理を思い思いに口に運ぶ。
空は夕焼けに染まり、静かな川のほとりに、ぱちぱちと焚火の音が聞こえる。
『
……おかしい。どう考えても根本的に調味料やらが足りてないはずなのに。
どうやら僕は、ゲーム攻略から外れたところで、とんでもないアイテムを手に入れてしまったのかもしれない。
「それにしても……大所帯になったものだな、我が半身よ」
樫宮先輩が手を止めて、僕に話しかけてきた。
僕はそっと、先輩の方を振り向く。
そのとき見えた先輩の表情には、なぜだか言葉以上に複雑な感情が込められているような……そんな風に僕には見えてしまった。
「いいじゃないですか、賑やかですし」
僕は、半ば自分に言い聞かせるように言う。
このゲームを始めた頃は、こんなに賑やかになるとは思っていなかった。
「私はナギ坊と二人が良かったのだけどな……」
先輩が、ぼそりと呟く。
小さな声で、ほとんど聞き取れないくらいの声量だった。
「……えっと、何か言いました?」
「な、何も言っておらぬわっ」
僕が訊ねると、先輩は何やら慌てた様子で取り繕った。
「……そうですか」
僕たち二人は、再び静かになる。
その様子を、しおりんは静かに見つめていた。
楽しい時間は、あっという間に過ぎ去っていくものだ。
――そうして、僕たちの初めてのキャンプは、余韻を残したまま静かに終わりを迎えたのだった。
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