第9話 変人たちは廃墟を開放する


「終わったのか……」

 

 ナギが呟く。手には『氷魔の剣』を握ったままだ。

 視界にレベルアップのログが見える。


 『ナギ プレイヤーレベル:12→16』


 今回の戦闘で、レベルが一気に4も上がっていた。

 そうだよな、レベル21とレベル23のボスを倒したんだ。それだけ上がっても何の不思議もない。

 それと同時に、今まで戦っていた敵がいかに強敵だったのかを思い知らされる。

 よく勝てたもんだよ、全く。


 見ると、床に散らばった短剣の氷も既に溶け始めていた。

 戦いが終わったことを、ようやく実感する。

 ここには『彷徨える聖鎧』も『キング・ポルターガイスト』も、もういない。

 2体との戦いは、思っていた以上にしんどいものだった。


「……命が掛かってるって、やっぱりしんどいな」


 それは、今までに経験したことのないプレッシャーだった。

 しかし、それだけではない充実感もある。


「ふうん、なかなかやるわね。さすが私が宿敵ライバルと認めた男、というわけかしら」


 クレアは得意げな様子だ。


「あはは、ありがとう」


 一流のヒーラーがいなければ、決して勝てる戦いではなかった。

 今回の戦いは、クレアにも感謝しなくちゃいけないな。


 ボスモンスターが倒れた跡に、ドロップアイテムが落ちている。


 ■薄汚れた聖者の鎧

 ■武器生成石(上)×10


 鎧装備と、大量の武器素材。あの2体らしいドロップアイテムだ。


「おい、貴様らっ! 健闘を称え合っている場合ではないのだぞ! 早くこっちを手伝わぬかっ!」


 樫宮先輩の声だ。入口の方から聞こえてくる。

 振り返ると、そこにはびっくりな光景が広がっていた。


 大量のスケルトンの群れ。

 それがまるでゾンビ映画のようにこちらへ向かってくる。

 『キング・ポルターガイスト』の置き土産というわけだ。

 ミノタウロス一匹に手に負える数じゃなさそうだ。


「何よあれ!? あれ全部スケルトンなの!? ……早く助けに行かなくちゃ!」


 クレアが動く前に、既にナギの体は動いていた。

 『氷魔の剣』を握りしめ、同業者組合プレイヤーズギルドの入口へ駆ける。


 さあ、最後の戦いだ。

 この<辺境都市アステロ>をプレイヤーの元へ取り戻すとしよう。



 ◇



 スケルトン撃退戦は、結構な耐久戦だった。

 しかし、『彷徨える聖鎧』と『キング・ポルターガイスト』、この2体のボスとの戦いを経験した後だと、ただ長いだけのぬるい戦いでしかない。


 <辺境都市アステロ>には、もはや王たる『キング・ポルターガイスト』はいない。だから辛抱強くアンデットたちを駆逐していけば、戦う意思を失い街の外へ敗走していく。


 そして、最後の一匹を追い出したところで、メッセージが出現した。



『<辺境都市アステロ>がモンスターから解放されました』


『<辺境都市アステロ>をリスポーン地点として設定しますか?』



 アンデットがいなくなったところで、街は依然廃墟のままだ。

 今のところは、この2つのメッセージを見れた――それでよしとしよう。



 ◇



「いい眺めだな……」


 同業者組合プレイヤーズギルドの屋上。

 そこから見えるのは、夕日に照らされた<辺境都市アステロ>の姿だ。

 一面オレンジ色に輝く無人の廃墟は、かなりノスタルジックな光景だった。


「綺麗ですね……」


 樫宮先輩と二人で、この景色を見ていられる。

 これこそがアンデットたちから勝ち取ったご褒美なのかもしれない。

 何時間でも見ていられる、幻想的で、美しい光景だった。


 樫宮先輩が、くるりとこちらへ振り返る。

 夕焼けを背景に、樫宮先輩が悪戯っぽく微笑んだ。

 

「これで初日が終わったわけだが。どうだ、楽しかったか?」


 先輩の言葉で気付く。そうか、まだ一日しかたっていないんだ。

 いろんなことを経験したおかげで、自分はまるで一週間たった気持ちでいた。

 本当に、目まぐるしい一日だった。


「そうですね……久しぶりにギリギリの戦いで、楽しかったです」


「ふふっ、それは良かった。苦労して『ラプラスの庭』を用意した甲斐もあったというわけだ」


 先輩は嬉しそうに笑う。

 

「それにしても、あの2体は強敵でしたね」


 ナギが思い出すように言う。しみじみとした、そんな口調だ。

 「そうだな」と先輩も笑う。樫宮先輩らしい、悪戯っぽい微笑みだ。


「だが、あの程度で満足してもらっては困るぞ? この世界には、まだ見ぬ強敵が山ほど潜んでいるのだからな」


「そうか、そう考えるとなんだかワクワクしますね。この世界には、まだまだ強いやつが沢山いるんだ。……もしかしたら、死んじゃうかもしれませんね」


「心配はいらぬさ、我がついている」


 


「――安心して戦えるよう、お主の背中を守るのだからな」


 



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