八
「……はい、もしもし。ああ、ソウタか。携帯にかけろよ、携帯に」
「別にいいだろ? お前は家にかけても携帯にかけてもだいたい繋がるんだから」
「これから出かけるところだったんだよ。お前一足遅れたら繋がらなかったぞ」
「そうかい。今日は何の依頼なんだ?」
「いや、平田さんの経過を見るだけだよ」
「ああ、はいはい。一応オレにも報告くれよ、半分はオレの患者なんだから」
「わかってるよ。それじゃ、そろそろ行くわ」
「おう、カミさん大事にしろよ」
あの手術から一ヶ月が経った。もう一度依頼主に話を聞いて、何も問題が無いようであれば、除霊は完了だ。
「そうだリョウくん、おんぶして!」
「さすがに昼間は目立つからダメだ」
「じゃあ手繋いで行こう! そのくらいならいいでしょ?」
「しょうがねえな、ちょっとだけだぞ」
電車を降りて、キリコと手を繋ぎながら五分ほど歩くと、平田さんのアパートが見えてきた。部屋の番号は覚えているから、今回は平田さんも出迎えてはこない。
「……ん?」
部屋の前までたどり着き、インターホンを鳴らそうとした時、扉の横の表札に目が行った。
「あれあれ〜? なんか名前が増えてるよ。このリンって人、もしかして芽ヶ沢さんじゃない?」
「入ればわかるだろ……すいません、平田さんはいらっしゃいますか?」
「はい、ただいま……ああ、東屋さん! その節はどうも……」
「いえいえ、どうですか、その後は?」
「はい。もうおかしなことは起こってません」
「それは良かった。ご結婚、なさったんですか?」
「そうなんですよ! あの後、急にこっちにやって来たんです。おーい、リン! 東屋さんが来てるぞ!」
彼が部屋の中に声をかけると、少し間を置いて一人の女性が出てきた。間違いない。芽ヶ沢さんだ。キリコも嬉しそうな顔をして、平田さんの隣に回り込み、腕を肘でつついている。
「本当にありがとうございました。全部、東屋さんのおかげです」
「いえ、俺は何もしてませんから……」
「そんな、ご謙遜を……」
「本当です。ただ、頼れる奴らがいただけです」
東屋夫妻の幽霊治療 鮎川剛 @yukinotama
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