「来たね、リョウくん」

「お前も一週間付きっきりで見ててくれてありがとな。ご苦労様」

「大変だったけど、これでなんとかなりそうだね」

「良かったな、ソウタがいてくれて」

「まあ、わたしに言わせればまだまだだけどね……ふふん」


 芽ヶ沢さんに紹介状を手渡してから一週間後、彼女の手術を担当すると、ソウタから連絡があった。その知らせを聞いて、俺たちも行動を開始した。


「こんにちは、芽ヶ沢さん。今度こそ、あなたの痛みを治しに来ました。これでもう最後です」

「……塩水の準備出来たぞ、早くやろうぜ」

「了解。それじゃあ麻酔かけますね。大丈夫、すぐ終わりますよ」


 再び訪れた平田さんの家で、俺たちは最後の準備に取り掛かっていた。キリコが付きっきりで見ていたから、芽ヶ沢さんの霊は相変わらずそこにいた。

 キリコがカテーテルを繋ぐと、ペットボトルから少しずつ塩水が流れ出す。

 しばらく場が沈黙に包まれた。


「……よし、眠ったみたい。あとはソウタからの連絡を待つだけだね」

「ああ、そうだな」


 さて、手術の計画はこうだ。まず、ソウタが先に芽ヶ沢さんの手術を始める。ソウタには一足先に、芽ヶ沢さんの左心室にある患部を除去してもらう。

 そっちが終わり次第、看護師を通じて俺たちに連絡、残った大動脈瘤をキリコとソウタで同時に除去する。これなら、互いに何の影響も無く手術を終えられるはずだ。


「…………」

「…………」


 またも沈黙。時計の針の音だけが聞こえる。キリコは目を閉じて集中しているようだ。とても話しかけられる様子ではない。

 外の日も傾きかけてきた、その時だった。


「──!」


 俺の携帯が鳴った! 急いで応答する。


「もしもし、東屋先生ですか?」

「そうです! 西村先生の方は?」

「今、左心室の血栓を除去しました!」

「了解! 残った方は?」

「十六時から始めるそうです!」

「手順は?」

「大丈夫! ソウタもわたしも北野先生の流儀だから、細かい所まで全部一緒!」

「キリコ……! わかった。手順は西村先生にお任せします! それでは!」


 電話を切り、キリコの方を見ると、既に彼女は医者の顔になっていた。

 時計を見ると、あと一分を切っている。


「……それではこれより、大動脈瘤切除術を開始します。はいメス──」

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