第33話 ガーディアン(七) ~Oneness ~
「ようこそ、おいでくださいました。Dr.シノン。あぁ、Mrs.シノンとお呼びした方がよろしいですかね....今日は」
数日後、私は再びハウゼン教授のオフィスにいた。ギィを通しての『面談』のため、イーサンは同席しておらず、ギィとロディ―ふたりの父親のディートリヒは、仕事で宇宙空間を飛んでいた。
教授の申し出は、ふたりの息子について話をしたい.....とのことだったため、私ひとりでの訪問だった。
「実に活逹で良いお子さん逹ですね。......男の子らしい男の子逹だ.....」
「主人の、ディートリヒの教育方針です。......その......ラウディスには合わないかもしれませんが......」
ラウディスでは、高い異能力を持ち、教師や政府に従順で奉仕的であることが最も優れたこととされる。......『兵器』に意志や感情は必要無いからだ。第五エリアの『異変』は、政府の方針と人間の自然的な有り様の『不整合』から発生した事故だ。
「そう......ですね」
ハウゼン教授は静かに言った。
「この星の有り様は、あの子達には合わない。......人間性の豊かなお子さん逹には、もっと相応しい環境がある」
つまりは、ギィとロディは、この星には『不適合』ということだ。が、教授の次の言葉は、私にもっと衝撃を与えた。
「近々......ラウディアンの遺伝子を持たない子ども逹は、スタディ-エリアに所属することが出来なくなる。......亡命者の子どもであっても、サマナや都市部では教育を受けることが出来なくなる」
「えっ......?!」
「多様性を排除する方針が、政府の中枢で決定されたのです。ラウディスは寛容な星ではなく、厳密な閉ざされた星になることを選択したのです。......優秀なラウディアンとそれ以外の人々......という図式を作ろうとしている。......かつて星間戦争を引き起こした時のように」
「何故、今さらそんな...惑星連合の監察が入るかもしれない時に...?」
私は言葉を失った。明らかに進歩ではなく後退ではないか。しかも......
「ラウディスは、惑星連合からの脱退を表明します。おそらく近いうちに......。この星の政府の方針は惑星連合の掲げる『融和』と『人道主義』にそぐわない......。現在の政府が政権の中枢に立った時から始まったことではありますが.....」
ハウゼン教授は珈琲を一口、そして続けた。
「マスターΩ《オメガ》は、『
首を傾げる私に教授はゆっくりと説明してくれた。
―四人のガーディアンは、『人間―Human ― 』を構成する要素を表します。......
しかし......
「イーサンは、『完全な状態』は停止した、死んだ状態だと言っていました。人間や社会にそれはあり得ない......と」
訝る私に、ハウゼン教授は微笑み、小さく首を振った。
「『安定した状態』というのは『停止した状態』ではありません。正常に、一定の質量と速度を保って『循環』している状態です。つまり、人間で言えば『健康』な状態です。こう申し上げれば解りやすいですかな?ドクター?」
「えぇ、解ります」
私は頷いて、更なる『講義』に耳を傾けた。
「そして、人間の健康には二つの要素がある...『肉体』の健康と『精神』の健康。そして日常的な意識と高次の意識.....形而下の意識と形而上の意識とも言えますが、『健康』な『統合』の取れた人間―Human ― であるためには、これらの要素がバランスの取れた状態である必要があります。『
「では、七人の殉教者達は......?」
「人間が人間たる由縁は『知恵』を持ち、思考することが出来ることです。彼らは、その『知恵』を司る存在......実際には、ラウディスが星間戦争から復興する際にアンドロメディアからの示唆によって設置された七つの都市と七つの部門の指導者となるべき存在として作られた存在でした。しかし.....」
「政府の中心となる人物が権力や権威が分散されることを嫌って、陰謀を.......ということですか?......
「そうです。そして、彼の意志を継いだ総統が、星の政権を握ってきた.....」
ハウゼン教授は深く頷いて、眼を伏せた。
「アンドロメディア内の反連合勢力を後ろ楯にアルクトゥールスやシリウスの擁護を得て独裁政権を樹立したのです......だが、それももう限界に来ている...」
「
「マスターΩ《オメガ》が目覚めて軌道を再び『正常』に戻すか、現在の政権と共に崩壊するか.....この星の『最後の審判』は目の前に迫っています.....」
ハウゼン教授はおもむろに椅子から立ち上がり、窓辺に足を進めた。
「ですから......健やかな貴女の子ども達は、早くご主人の母星に移住させた方が良い。病み蝕まれていく星と心中させる必要は無い...だが......」
「
「この星を救うには、貴女の協力が必要です。フェリーナの『母性』の愛のみが、レインボー-クリアのクリスタル達の魂を震わせ、呼び起こすことが出来る.....」
私はその時、初めて、この『面談』の意味を知った。
「マゼンタのエネルギー-レイは、レインボー-クリアのエネルギー-レイの対極にあり、対となるエネルギーなのです。そして、そのエネルギー-レイは、フェリーナにしか存在しない......」
「え?」
「ラウディアンには作れなかったのです。『愛』を切り捨てた
絞り出すような声。窓ガラスに映った教授の表情は苦渋に満ちていた。が、その両目は微かな希望を見出だしていた。遠くの大樹の影で、ミーナが、じっとこちらを見詰めていた。
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