第48話 隠し部屋
「あれ、もう行き止まりか……」
トラ型モンスターのいた場所の先は、すぐに行き止まりになっていた。
引き返そうとする俺の横で、里見さんは岩壁をじっと見つめている。
「里見さん?」
問いかけるに、里見さんは壁を指差しながら答える。
「ユウト君、この先まだ何かありそうだよ?」
「何かって、どう見ても行き止まりじゃないですか」
「ほらこれ」
一体何があるというのか。
里見さんが指差す場所を見ると、そこにはメニューウインドウのような画面が映し出されていた。
【この先はアイテムの使用が制限されます。先に進みますか? はい・いいえ】
「隠し部屋か……?」
「なんか面白そう。行ってみようよ」
里見さんが【はい】を押そうと指を伸ばす。
俺は慌ててそれを止める。
「待って下さい。さすがに俺たちだけじゃ危ないですよ」
「でも、ここは第一層だよ? なら安全でしょ」
「そういう問題じゃなくってですね……」
ダンジョンの隠し部屋というのは周りの難易度に関係なく強力なモンスターが出現する可能性が極めて高い。いや、確実に出ると言っていい。
ゲームのセオリーを知らない里見さんにとっては理解しがたいかもしれないが、この中はとにかく危険だ。
「戻って間々山曹長に報告するべきです」
「私だけじゃ無理かもだけど、ユウト君がいれば大丈夫だって」
里見さんは俺の言葉を笑って受け流し、ボタンを押してしまった。
『ピッ』
ゴロゴロゴロと岩壁が崩れ、隠し部屋が出現する。
「おお、だだっ広い空間……!」
里見さんは興味津々な様子で隠し部屋へと足を踏み入れる。
「もっと警戒して下さいよ……」
俺は後ろから隠し部屋に入る。
するとその瞬間、背後からゴロゴロゴロと轟音が響いた。
気が付くと、岩壁が元に戻っていて入り口が無くなってしまっていた。
「ユウト君、出口が……!」
「だから危ないと言ったじゃないですか」
思わず口論になりかけたが、今はそんなことをしている場合ではない。
まずは出る方法を探さなければ。
だが、考える暇もなく、またしても大きな音が聞こえてきた。
「今度は何?」
里見さんが銃を構えながら怯えた表情を見せる。
「多分、モンスターだ。どこから来る……?」
俺は折りたたみ傘を肩に構え、周囲を見回す。
直後、地面がビキビキと割れ、下から巨大なドラゴンが姿を現した。
「グギャァァァ!」
【アルティメットヴォーパルドラゴン レベル75】
【HP:500000/500000】
「レベル七十五って、嘘でしょ……」
「とにかく早く倒すぞ。里見さんは距離を取れ!」
俺は敬語も忘れ、里見さんに指示を飛ばす。
しかし、里見さんは恐怖で体が動かないようだ。
「まずいな……」
俺は里見さんの状況を気にしつつ、傘からキュイーンと音が鳴ると同時に地面を蹴った。
五連撃剣技リーサルスラッシュ。
その攻撃はドラゴンの皮膚を切り刻みこそしたが、さほどHPを削ることは出来なかった。
まさかこの剣戟スキルが効かないなんて……。
スキル発動後の反動硬直で固まりながら、次の策を練る。
「グギャァッ!」
ドラゴンは固まっている俺をまっすぐに睨みつける。
硬直が解けたら目を狙おう。
だが、それより早く、バンッと銃声が轟いた。
「……ユウト君に、手を出すな!」
里見さんはすごい剣幕でドラゴンに向かって叫ぶ。
『バンッ、バンッ!』
次々と銃弾を浴びせられるドラゴンは、苦しそうに身悶えている。
【HP:233446/500000】
これは確実に効いている。
反動硬直が解けた俺は、再び剣戟スキルを発動させる。
「五連撃剣技、リーサルスラッシュ!」
銃と剣による攻撃を同時に受け、ドラゴンが大きくよろめいた。
反動硬直状態の体を無理やり動かし、里見さんの方を見る。
里見さんはリロードしては発砲を繰り返している。
バンッ、バンッ、と一定のリズムで銃声が響く。
このままなら、行ける。
確信を持ちかけたその時、突如銃声が止まった。
「どうした?」
硬直したまま質問を投げかけると、里見さんは銃を下ろしながら言う。
「弾、無くなっちゃった……」
「そんな……! そしたら早くドラゴンから離れて!」
俺の体はまだ動かない。
今すぐにでも里見さんのカバーに入りたいのに。
里見さんは銃を構え直し、ゆっくりとドラゴンに近づいていく。
「里見さん、ちょっと。何をするつもりですか……?」
すると里見さんは俺に優しく微笑んだ。
「ありがとう、ユウト君。本当に短い間だったけど、ユウト君と出会えて良かった」
「駄目です、里見さん……!」
このままでは、里見さんが死んでしまう。
動け。まだ硬直は解けないのか。
しかし、いくら焦ったところで反動硬直は解けることは無く。
「やあぁっ!」
「グギャァァァ!」
里見さんが銃に取り付けられたナイフを喉元に突き刺した刹那、ドラゴンが里見さんの体を飲み込んだ。
「ぁ……」
声にならない声が俺の口から漏れる。
ドラゴンは何事もなかったかのように俺に視線を向ける。
「里見さんを……、里見さんを返せっ!」
硬直が解けた俺はダンジョン中に聞こえるような大声を上げ、剣戟スキルも無しにドラゴンに斬りかかる。
その先は怒りや憎しみに任せ傘を振るい続けた。
どうやって倒したのかも覚えていない。
気付いた時にはドラゴンは光の粒子を散らして消滅していた。
【弘前ユウトのレベルが62に上昇しました】
【ジャイアントキリング報酬 転移クリスタルを獲得しました】
「レベルとか報酬とか、そんな物いらないから、里見さんを返してくれよ……」
目の前に表示されたメッセージは、涙で滲んでいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます