第38話 襲撃
夕食を終えた俺たちは、それぞれが集めた情報を整理し、この先の計画を立てることにした。
「どこに行くにしても王都は通らないといけないみたいだし、まずはそこを目指さないとだよな」
「全部の村に転移門があるって話だから、拠点はここの宿でもいいかもしれないね」
「たまには東京にも戻りたいんだけど」
俺とミサキ、カナミが意見を述べると、レナは頷いて口を開いた。
「そうね……。役割分担しながらやっていきましょうか」
「役割って、例えば?」
首を傾げる俺に、ホノカが言う。
「次の村を目指す人と、この村に残る人と、東京に戻る人、みたいなっ。そういう感じですかねっ?」
「ええ。そうやって何班かに分けた方が効率がいいと思うのだけれど」
それを聞いたヨシアキとアカリは大きく首を縦に振った。
「おう。じゃあそうしようぜ」
「ああ。異論はない」
俺としても、ひたすら王都を目指すというのは気が重いし、かと言ってこの村でじっとしているというのもなかなかに辛い気がした。役割を分けるのは良い案だと思う。
「俺もレナの考えに賛成だ」
「ユウト君が言うなら、私も賛成だよ」
ミサキもこくりと頷く。
こうして明日からは三班体制で行動を取ることになった。
「そろそろロビーを掃除したいんだけど、話はもう終わった?」
そこへアルジオが声を掛けてきた。
「ああ、ごめん」
俺たちは急いで席を立ち、二階へと向かう。
階段を登り、それぞれの部屋に入る。
ミサキとともにベッドに腰掛け、ふーっと息を吐く。
「今日は疲れたな……」
「そうだね。でも、明日からはもっと大変かもね」
「いやぁ、あの時以来ずっとトラブル続きだからなぁ。もう少し平穏に過ごしたいものだが」
「全部解決したらハッキング前まで時間を巻き戻すから、夏休みはゆっくり過ごすといいよ。もちろんユウト君の記憶は消えないようにするから安心して」
そう言って微笑みかけるミサキ。
俺はベッドにばたんと寝転がり、天井を見上げる。
「夏休み、か……。俺は一体何日間の夏休みを過ごすことになるんだろうな……」
「少なくとも夏じゃなくなってそうだよね」
ミサキも隣のベッドで横になる。
「そうだ。そんなに長い間も現実世界に戻れないとなると、ミサキとかヨシアキの体はどうなっちゃうんだ?」
俺がふと疑問を口にすると、ミサキは「ん〜」と唸ってから答える。
「この世界は時間の進みを早めてるの。だからこっちでの二年は現実世界での一週間になるのかな。ちょっと弱っちゃうかもだけど、すぐ元通りになると思うよ」
「そっか、これはゲームじゃないから時間を等倍にする必要もないんだな」
「そういうこと」
この世界はあくまでシミュレーションする為のものであって、基本的に人間がログインすることはない。であるならば時間の進みを早めるのも納得だ。
ただ、それが分かってかなり安心した。
もし仮に二年間機械の中に閉じ込められたとしたら、骨や筋肉が衰え、脳にも何らかの影響が出るはず。仕事復帰はおろか社会復帰も容易ではないだろう。
ワールドリゲインタワー到達までにそれなりの猶予があるというのはせめてもの救いである。
「だからと言って、のんびりしてもいられない。二年、二年以内にゲームを終わらせよう」
俺が呟くと、ミサキは「うん」と小さく頷いた。
ぐっすりと眠っていた俺とミサキは、騒がしい声に目を覚ました。
「ん……。何だ、こんな夜中に……?」
「外から聞こえるね」
俺は目をこすりながら立ち上がり、窓から広場を眺める。
するとそこには、転移門から次々と現れる騎馬隊の姿があった。
その中の一人、リーダーと思しき男が大声で叫ぶ。
「神の使いはどこにいる! 早く出て来い!」
神の使い。俺たちのことか?
「ユウト君、あの人が探してるのって私たちだよね……?」
「多分、そうだろうな……」
怯えている様子のミサキの手を握り、窓から身を隠す。
このままやり過ごしたいところだが、あの人数で手当たり次第に捜索されれば見つかるのは時間の問題だろう。
そうなれば、余計に怪しまれる可能性が高い。
「仕方ない。外に出よう」
俺はミサキの手を強く握り直し、部屋を出る。
廊下にはカナミとレナ、ホノカとカナミが集まっていた。
「お兄ちゃん、行かない方がいいんじゃない……?」
「でも、さすがに逃げ切れる気もしないわ」
「私たち、殺されるんですかねっ……?」
「話が通じる相手だといいのだが……」
みんな不安そうだ。
俺も怖くて仕方がない。
だが、ここで俺が怯んだら更に不安にさせてしまう。
強気にならないと。
「大丈夫。きっと挨拶に来ただけじゃないか?」
無理やり笑顔を作る。
俺の方を見て、四人の表情が少し緩む。
しかし、ミサキは強がりだと気付いているようで、耳元でそっと囁いた。
「ユウト君、本当に平気?」
さすがにミサキにはお見通しだったか。
「……正直言うと、結構怖いよ。だけど、ミサキを元の世界に返すまで絶対に死なないって約束は、必ず守るから」
俺はそう返して、階段を下りた。
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