第36話 言い伝え
俺たちは切り株の椅子に腰掛け、本題に入る。
「それで、塔の伝説ってどういう話なんだ?」
俺の言葉に、アルジオは頷いてから話を始める。
「この村の言い伝えでね。王国から遥か遠く、世界の果てと呼ばれる場所に、天に届く塔がある。その最上階に辿り着いたものには全てが与えられる、みたいな。まあ、そんな話だよ」
「ふーん……」
分かったような分からないような。
ただ、その言い伝えはどこかあのアナウンスに似ている気がする。
「じゃあ、どうして私たちが《神の使い》なんですか?」
カナミが問いかける。
すると今度はルーラが口を開いた。
「それについてはですね、王の命令文書をご覧いただいた方が早いと思います。少々お待ちくださいませ」
立ち上がり、カウンターへと向かう。
その様子をじっと眺めていると、アルジオが小声で話しかけてきた。
「ルーラはすごくしっかり者で、僕の自慢の妹なんだ」
「確かに、真面目そうな良い子だよな。俺の妹にも見習って欲しいよ」
こそっと囁き返すと、カナミがこちらを睨みつけてきた。
「ん? お兄ちゃん今なんか言った?」
「いやいや、何も……」
妹の聞き耳スキル高すぎやしないか?
俺は苦笑いを浮かべつつかぶりを振る。
カナミは訝しんでいる様子だが、何とかこの場を切り抜けることが出来た。
「すみません、お待たせいたしました」
ルーラが戻ってきた。
テーブルの上に一枚の紙を置き、説明を始める。
「こちらの紙は、この王国が建国された時に村宛てに届いた王からの命令文書です。神の使いの来訪に備え、宿屋を整備し、千人規模の客室数を確保せよとの内容が書かれています。神の使いについては、山の向こうから訪れる未来文明の人間だと補足されています。皆さんの服装や持ち物を見る限り、その条件に一致しているように考えられるのですが」
「未来文明……。この世界から見れば、私たちの世界は未来に見えるかもね」
ミサキが呟く。
つまり、アルジオやルーラ、ファルケム族が俺たちを神の使いと呼ぶのは、何かを勘違いしている訳ではないということか。
こうなったら話を合わせてしまった方が早そうだ。
「ってことは、俺たちのみたいな人をこの世界じゃ神の使いって言うんだな?」
確認の意味も込めて聞いてみると、アルジオはこくりと頷いた。
「うん。そういうことだと思うよ」
なるほど。それならこのまま乗っからせてもらおう。
「そしたら、急なお願いで悪いんだが、今日からしばらくこの宿に泊まっても構わないか?」
「もちろんだよ。そのために宿屋をやってるんだから」
「かしこまりました。すぐにお部屋をご用意いたしますね」
アルジオとルーラが二階へと階段を登っていく。
それを見送り、俺たちは今後の作戦を練る。
「拠点を確保出来たのはいいが、こっからどうすんだ?」
ヨシアキが疑問を投げかける。
「ワールドリゲインタワーの場所が明確でない状況で、闇雲に歩き回るのは効率的では無いと思うわ」
それに対し、レナが意見を述べる。
「となると、まずは情報収集ですかねっ?」
「だな。あとはこの世界の地図も手に入れておきたい」
ホノカとアカリが言う。
「よし、そしたら最初は村人に話を聞いて回ろう。もし周りに別の村があればそこに行ってみるのもいいかもしれないな」
俺が提案すると、全員が首を縦に振った。
「私はユウト君に賛成だよ。情報が無いと動けないもんね」
「ただ歩くだけじゃ疲れちゃうし、私もお兄ちゃんに一票!」
ミサキとカナミが声をあげる。
こうして俺たちは、ウェルカミリア村で情報収集をすることになった。
「部屋の準備出来たよ」
「質素なお部屋で申し訳ございません」
しばらくして、アルジオとルーラが階段を降りてきた。
椅子から立ち上がり、とりあえず荷物を置きに行く。
二階に上がると、部屋の扉がいくつも並んでいた。
「部屋は二人ずつだから、話し合って決めてね」
アルジオに言われ、俺たちは顔を見合わせる。
俺、ミサキ、カナミ、レナ、ヨシアキ、ホノカ、アカリ。
七人で部屋割りをすると、誰かが一人部屋になる。
「じゃあ、ヨシアキが一人な」
「おいユウト、何でだよ?」
納得がいかない様子のヨシアキに、俺は淡々と告げる。
「それぞれの関係性を考えて部屋を割った場合、俺はミサキと、カナミはレナと、ホノカはアカリと同部屋になって、ヨシアキが余る。お前は誰かと付き合ってる訳でも無いし、女子と一緒なのはおかしな話だろ?」
「だったら、俺とユウトが同部屋でいいじゃねぇか」
「そしたら女子が一人になっちゃうじゃないか。それはそれで問題だろ」
ここまで言うと、ヨシアキは反論出来なくなったのかぐぬぬと唇を噛んだ。
「じゃあ、荷物を置いたらまた集合ってことで」
「「了解!」」
各々が自分たちの部屋へと入っていく。
俺はミサキと共に階段に一番近い右側の部屋の扉を開ける。
「失礼しまーす……」
ガチャ。
「落ち着いた感じのいい部屋だな」
「うん。シンプルで素敵だね」
部屋を見回し、俺とミサキが呟く。
室内には右側にベッドが二台、左側に机と椅子が置いてあって、奥の観音開きタイプの窓からは日が差し込んでいる。
派手な装飾こそ一切無いが、極限まで無駄を削ぎ落としたような快適空間になっていた。
俺とミサキは荷物を机に置き、必要最低限の物だけを持って再び部屋を出た。
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