第35話 ウェルカミリア村

 アルジオの身長は俺と同じ百五十八センチ。金髪碧眼で鼻筋が通っていて、その顔立ちはまさに外国のイケメンといった雰囲気だ。


 アルジオの家へ向かう途中、俺はこの村について色々と質問をした。


「ウェルカミリア村って、どんな村なんだ?」

「そうだね……。基本的には普通の農村だよ。でも、宿が多いっていうのが他とは違うところかな?」

「宿が多い……?」


 首を傾げる俺に、アルジオは説明を加える。


「別に観光客が多いわけじゃないんだけど、王からの命令でね。いつか来たる《神の使い》に備え、休める場所を確保するようにって」

「神の使い、ファルケム族も言っていたわね……」


 レナが呟くと、アルジオは驚いた表情を見せた。


「ファルケム族って……。もしかして君たち、この山の向こうから来たのかい?」

「え? ああ、そうだけど……?」


 するとアルジオは急に立ち止まり、俺の手を握った。


「つまり、君たちがその神の使いって訳だね!」

「は、はぁっ!?」


 いやいやアルジオ、俺たちはただの人間だぞ?

 正確には人工知能だけど。

 戸惑う俺たちをよそに、アルジオは興奮気味に話を続ける。


「王の司令は本当だった。最初は神の使いがこの山の向こうに降り立つなんて信じてなかったけど、今僕の目の前にいる。この村はついに報われるんだ。早く村長に報告しないと!」


 気が付くとアルジオはどこかへと駆け出してしまった。

 俺はミサキと顔を見合わせ、苦笑いを浮かべる。


「なんか、とんでもない勘違いをされちゃったね」

「ああ、そうだな……」


 ミサキの言葉に、こくりと頷く。


「誤解を解くなら早くしないと、どんどん言い出しにくくなりますよっ!」


 焦りを感じている様子のホノカに、ヨシアキが笑いながら言う。


「まあ、神の使いに間違われる分にはいいんじゃねぇのか? 悪い気はしないだろ」

「そういう問題なのか……?」


 アカリは首を捻りつつ、ヨシアキの適当発言を受け入れる。


「でもさ、神の使いって何なんだろ?」


 疑問を口にするカナミに、レナが返す。


「この村の人だけじゃなくてファルケム族も知っていたのだから、その存在はこの世界の共通認識なのでしょうけれど」

「うーん。塔の伝説もだが、神の使いについても話を聞く必要があるな……」


 腕を組んで質問を整理していると、アルジオが向こうから走って戻って来た。


「ごめんよ、放ったらかしちゃって。まずはうちに案内しないとだったね」

「ああ、気にしなくていいよ」


 俺がひらひらと手を振ると、アルジオはホッとした表情を浮かべた。

 神の使いを怒らせてしまったとでも思ったのだろうか?


「それじゃあアルジオ君、お家まで連れていってもらえるかな?」


 ミサキが優しく話しかけると、彼は大きく頷いた。

 俺たちは再びアルジオの案内で彼の家へと歩き出す。


「ここが僕の家だよ」


 アルジオが指差したのは、広場の一角にある二階建ての建物だった。

 入り口には何か看板が掲げられている。


「もしかしてアルジオさんの家って、何かお店をやってるんですか?」


 カナミの問いかけに、彼は笑顔で答える。


「僕の家も宿屋をやってるんだよ。と言っても、開店休業状態なんだけどね……」

「アルジオは先ほど、この村に来る観光客は少ないと言っていたが、別の商売をしようとは思わなかったのか?」


 アカリが言うと、彼はふるふると首を振った。


「それは無いよ。だって王からの命令に逆らう訳にはいかないだろ?」

「そうですよねっ、命令ですもんねっ……」


 ホノカはこの村の住人に同情するように呟く。


「でも、気の毒だなんて思わないで欲しい。これは君たちの為に用意していたものなんだから」

「そ、そうか……」


 そんなことを言われると、反対にこちらの気が引けてしまう。

 ありがとうも違う気がするし、かと言って村人の努力を否定するのはもっと違う気がする。

 どう返せばいいのか悩んでいると、隣のレナが口を開いた。


「アルジオ、私たちは長旅で疲れているのよ。上がらせてもらっても構わないかしら?」

「ごめん、そうだよね。入って入って」


 アルジオは慌てて扉を開け、中に入るように促す。

 レナ、ファインプレー。

 俺が視線を送ると、レナはにやりと笑みを浮かべた。




 建物の中は木材がふんだんに使われていて、とても温かみのある空間になっていた。

 宿屋のロビーにあたる一階には、一本の木で出来たテーブルが中央に置かれていて、その周りに切り株のような椅子が手前に六個、向かいにも六個並べられている。奥にはカウンターがあり、一人しか入れないくらいの狭いスペースの中には女の子の姿が見える。


「すみません、お邪魔します」


 俺がカウンターに向かって挨拶すると、女の子はきょとんとした様子でカウンターから出てきた。


「兄上、おかえりなさいませ。あの、こちらの方は?」

「本人たちは旅人って言ってるけど、この人たちが王の言う神の使いだよ。これでやっとお客さんが増えるんだ」


 アルジオの答えに、彼の妹であろうその女の子は「まあ」と胸の前で手を握り、表情を綻ばせた。


「アルジオ君、その子は?」


 ミサキが問いかける。

 アルジオは女の子の背中を押し、一歩前に出させる。


「ほら、自己紹介して」

わたくしはルーラと申します。アルジオの妹で、こちらの宿のお手伝いをしておりました」


 丁寧な口調で話し深々とお辞儀をしたその女の子は、身長が百五十センチほどと小柄で、声も少し幼い印象だ。おそらく中学生くらいの年齢だろうか?

 そして、金髪に碧眼、鼻筋の通ったその顔はアルジオととてもよく似ている。


「ルーラ、よろしくな」


 微笑みかけると、ルーラも「よろしくお願いいたします」と笑顔を見せた。

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