第34話 ファンタジーの世界
「あとどれくらい歩けばいいの?」
カナミが問いかけてくる。
「感覚的にはそろそろ出口のはずなんだけど……」
俺が答えたその時、肌に僅かながら風の流れを感じた。
これはつまり、出口が近いということだ。
「ねえユウト君、遠くに光が見えるよ!」
ミサキが声をあげる。
目を凝らすと、洞窟の先が白く光っているのが見えた。
「よっしゃあ、ようやく外だぜ!」
ヨシアキは光めがけて勢いよく駆け出す。
「待ってくださいよっ」
「走ったら危ないと何度言えば……」
それを見たホノカとアカリが慌てて追いかけていく。
「全く。さぁ、私たちも行きましょう」
レナは呆れた様子でため息を吐き、肩を竦めながら言う。
「そうだな」
「うん」
「はい!」
俺とミサキ、カナミはこくりと頷き、光の方へと向かった。
出口が見えてきた。
外でヨシアキとホノカ、アカリが待ち構えている。
「おーい!」
「皆さん、早く来てくださいっ!」
「すごいことになってるぞ」
手を振り返しつつ、俺たちは顔を見合わせる。
「すごいことって何だ?」
「さあ、何だろう?」
「めっちゃ絶景だったり?」
「逆に断崖絶壁とかじゃないわよね」
適当な予想をしながら洞窟を抜ける。
するとそこには。
「おい、これって……!」
「嘘、だよね……?」
「待って待って、理解が追いつかないんだけど」
「外国、なのかしら……?」
まるでファンタジーの世界のような街並みが広がっていた。
その光景に目を奪われていると、隣のヨシアキがふと呟く。
「この街って、どこかで見たことある気がするんだが、どこだったっけかな……」
ミサキは顎に指を当て、しばし考えを巡らせる。
そして、何か思い出したのかパッと顔を上げた。
「そうだ、ウエスター合衆国の軍事研究の記事」
それを聞いたヨシアキもそれだといった様子でぽんと手を叩いた。
「ああ、あれだ。《軍事作戦指揮特化型人工知能》の育成空間だろ?」
「はい、おそらくは。でも、何でそれが文明存続シミュレーションの世界と繋がっているんでしょうか?」
「それが分からねぇんだよなぁ。どっちもVRMMOの規格をベースとしてるってことくらいしか、共通点も無いし……」
「VRMMO規格……」
ミサキが再び考え込む。
俺は二人の会話に聞き耳を立てていたが、内容が異次元すぎていくら聞いたところで到底理解出来る気がしなかった。いや、実際に次元が違うのだから当然か。
エンジニア同士の会話は一旦置いておいて、街の中に視線を向ける。
道路には石畳が敷かれていて、時折民族衣装のような姿をした村人や荷物を積んだ馬車が行き交う。
その両脇には二階建てのレンガ造りの家が立ち並び、西洋風の装飾がなされている。
「本当にゲームみたいだな……」
呟くと、レナが話しかけてきた。
「ねえユウト? あの村人は人工知能ってことでいいのよね?」
「ん? ああ、多分」
「一応私たちも人工知能だけれど、話は通じるのかしら?」
「確かに、これでコミュニケーションが取れないとなると厳しいな……」
もしあの村人たちが単なるNPCであった場合、本来入り込むはずのない存在とコミュニケーションが成立するのだろうか?
成立しなかった場合、俺たちはワールドリゲインタワーの情報を得ることも出来なければ、宿や食べ物すらも手に入らないことになる。そんな悪夢だけは避けたいところだ。
「とにかく話しかけてみれば済む話でしょ?」
呑気な妹は建物の方へと駆けて行って、村人に近寄る。
「すみませーん!」
いやいや、それはまずいだろ。
俺とレナは急いで後を追う。
「あの、私たち旅してる者なんですけど、ちょっとお話聞いてもいいですか?」
カナミが話しかけたのは、金髪をした若い好青年だった。
「おいカナミ、もっと慎重に……」
「コンタクトを取るのはミサキに確認してからじゃないと危ないわよ」
俺とレナは止めに入ろうとしたが、時すでに遅し。
好青年は振り返り、こちらを見てしまっていた。
「旅人? 珍しいね」
驚いているのか戸惑っているのか、じっとこちらを見つめる好青年に、カナミは躊躇なく質問を投げかける。
「突然で申し訳ないんですけど、ワールドリゲインタワーってどこにあるか知ってますか? 世界の果てにあるすごい塔みたいなやつ」
「世界の果ての塔……」
好青年は少考し、「あっ」と声をあげた。
まさかいきなり有力情報を得られるのか?
「それ、どこにあるんだ? 何でも構わない、知ってること全部教えてくれ」
俺が思わず詰め寄ると、彼はちょっと困りつつ答える。
「いや、僕が知ってるのはこの村に伝わる伝説みたいなもので、実際の塔のことじゃないよ」
「そ、そうか。悪かったな……」
塔の伝説も気にならないことはないが、欲しいのはワールドリゲインタワーにまつわる情報だ。実在しなければ意味がない。
がっくしと肩を落とすと、レナが耳元で囁く。
「でも、その伝説が関係ないとも言い切れないわよ? 一応話だけでも聞いてみたら? それに、これは村人と親しくなれるチャンスでもあるわ」
「それもそうだな……」
俺は好青年の方に向き直り、優しく微笑みかける。
「やっぱり、その伝説聞かせてくれないか? 俺は弘前ユウトだ。よろしくな」
手を差し出すと、彼も笑顔で俺の手を握った。
「僕はアルジオ。ユウト、よろしくね」
握手を交わしていると、そこへミサキとヨシアキ、ホノカ、アカリがやって来た。
「もう村人と仲良くなったの?」
「ってか、話通じるのかよ」
「その方、どなたですかっ?」
「ほう、彼もまた人工知能なのか?」
各々がそれぞれの反応を見せる。
「こんな大勢の旅人が来るなんて、少しびっくりだよ」
全員の顔を見回したアルジオはそう言って笑うと、村の中を指差した。
「僕の家がウェルカミリア村の真ん中にあるから、付いて来て」
俺たちはお言葉に甘えて、彼の家で話を聞くことにした。
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