第6話 P. O. K. D.
深く唸るようなエンジンの振動が身体に伝わってきた。
センサー類が次々と起動して、様々な情報をモニターに表示していく。
「な、なな、なんか動きだしたけどーっ⁉」
いや、そりゃ動くよな。動かしてんだから。と、自分でツッコんでしまった。
前面のモニターがまるで透明になったように外の景色を映し出す。
ガシャンという大きな音と共にコンテナの横壁が下へと開いた。
『デルタがコッチに来るよっ』
モニターの中の由衣が叫んだ。
『先生、早く起き上がって! ガンマはトレースシステムだから、先生と同じように動くから!』
今、ガンマはお尻を付いて座っている状態だ。あたしはそこから立ち上がるイメージで身体を動かしていく。
するとホントにガンマも立ち上がった。だが、上手く踏ん張れない。まるで産まれたての動物がヨロヨロ起き上がったかのようだ。
『来た! あいつらだ』
まずい事によろけている所へ、デルタが1台入ってきた。
あたしの機体を見るなり、ギョッとした様に動きが止まる。が、すぐさま銃を構えた。
うわっ、マジかよ⁉ 銃使っちゃうの⁉ 話が違う!
『先生、銃はまずいかも。避けて!』
「ええ⁉ このデカい図体で銃弾避けろとかムリでしょ⁉ 立ってるだけで精一杯なのに⁉」
『大丈夫、その機体は超高機動タイプなんだ。ローラーダッシュを使って!』
「ローラーダッシュ?」
『走る感じでつま先に力を入れて!』
言われるがままにつま先に力を入れる。途端に
ガリガリガリガリ‼
と、地面を激しく削りながら、機体が猛烈にダッシュしていく。どうやら足の側面にローラースケートのようなローラーが付いているらしい。
いきなり走り出した機体に、デルタは明らかにビビりながらも銃の狙いをつけ始める。
「こ、これどーやって曲がるの⁉」
『先生、スケートとかスキーやった事ある? あれと同じく体重移動で自在に曲がるから』
スキーなら結構自信ある。あたしはちょっと左足に力を入れてみた。機体がその方向へ軽く曲がっていく。次に右足におもいっきり力を入れるとガリガリと地面を削りながら急反転していく。
なるほど、力の入れ加減で思うままに急旋回できるのか。旋回時のGは凄まじいが、それに耐えれば縦横無尽に動き回れそうだ。
調子に乗って動いてたら、デルタの銃口がこちらを向いた。即座に速度を上げて急旋回する。銃弾が機体を掠めていった。とうとう打ちやがった!
あたしは更に移動スピードを上げていく。凄まじいGを受けながらも高速の左右移動で狙いを絞らせない。
『先生、すごい! でもあれ、Gがものすごいんじゃないの?』
モニターの向こうで由衣が巧に問い掛けているが、こっちはGに潰されそうでそれどころじゃない。
『ガンマは超高機動型なんだ。だから乗り手を選ぶ。Gに耐えられる緩衝材を持った人間に』
『緩衝材?……ってまさか』
『そう、おっぱいの弾力でGに対抗するんだ。それ故、ガンマはGカップ以上じゃないと起動しないんだよ』
はあ? なんじゃそれ⁉ バカなの? アンタの親父、バカなの?
『うっわ、天才と紙一重だわ』
由衣も呆れたように呟いた。
それに構わず、巧が叫ぶ。
『行っけぇー!
「名前ーっ‼‼」
あたしはGに耐えながら叫んだ。なんちゅう名前付けるんだ、バカ。
縦横無尽に走り回るに
「武器はないのっ? 武器は?」
そう言うと、モニターに機体の全身図が現れ、背中にある棒状の物が点滅した。咄嗟にあたしがその棒を抜くように動くと、
抜いた途端、その棒が鮮やかに赤く輝きだす。
「うっそー!? ビームサーベルじゃん!」
ビームサーベルを構えた
『あ、ダメだよ先生! それは!』
モニターの中で巧が叫んでるけどもう止まらない。
銃弾を避けながらビームサーベルを振り上げ、デルタの胴を薙ぎ払う。
あ、もしかしてこれ、相手を真っ二つにしちゃうヤツ? やばい、殺人になっちゃう! って一瞬思ったけど、もう、どうしようもなかった。
ヒットの瞬間、思わず目をつぶってしまう。ああ、ごめんなさい、オッサン。自業自得、因果応報とは言え、真っ二つに割っちゃうなんて。
ナンマイダブナンマイダブ
恐る恐る目を開けると、ホントに真っ二つになっていた。
……ビームサーベルが。
「あ、あれ?」
デルタのおっさんも切られたと思ったのか、固まっちゃってる。
『だからダメって言ったじゃん。それ単なる誘導灯なんだから』
巧が呆れたように言う。誘導灯って、工事現場でおっさんが振ってるアレか。
「えっビームサーベルじゃないの?」
『宇宙世紀じゃないんだからさ? そこまで科学は進んでないって』
うーん、残念。いや、助かったって言うべきか。
デルタの方も、ハッと我に返りまた銃を向けてくる。即座にローラーダッシュで距離を取ったら、残りの2台のデルタもやって来た。
「なんだあ? あの機体?」
「ガンマタイプか? 初めて見るな」
後から来た2台がそう感想をもらす。
「気をつけろ。アレは機動力ハンパないぞ」
あたしと殺りあったオッサンが警告した。3台のデルタが一斉に銃を向けてくる。
『
うん、アドバイスは非常に有り難いけど、その名前なんとかして?
「巧! 壁ぶち抜くけどいいよね?」
そう言いつつ、壁に向ってダッシュする。
『ええっ、マジ⁉』
だって入口付近にデルタが固まって出れないもん。なるべく薄そうな壁を狙ってガンマで突っ込んだ。
バリバリバリと派手な音をたてて壁を突き破り、外に出た。
さっきのスクラップに囲まれたスペースに戻ってきた。3台のデルタもガシャンガシャンと追ってくる。
ちょつとしたコロッセオみたいな広場の真ん中でガンマを止める。やや距離を開けて3台のデルタが縦に並んだ。
↑こんな感じの配置。
あれ、この配置なんか見た事あるな……
「……ってジェットストリームアタックじゃん‼」
『え? なに? FM?』
お嬢様、深夜ラジオじゃないからっ。つか、最近の子はファーストを知らないのか、嘆かわしい。
「行くぞ。ジェットストリームアタックだ」
先頭のおっさんがそう叫ぶ。
うわぁ、ベタなヤツってのも、それはそれでキモいもんだわ。
おっさん達三台のデルタがドタドタと突進してくる。うーん、アレ、ホバーで滑る様に移動するからカッコいいんであって、ドタドタ走って来られると、めっちゃ冷めるな。
向こうからの攻撃をわざわざ待つ必要ないんで、コッチからもフルダッシュしていく。
基本的なジェットストリームアタックって、先頭がまず目くらましの閃光出して、2台目がバズーカ打って、3台目がビームサーベルっていう3台連続攻撃だっけ? いや、アニメの話だけどさ? とりあえず、似たような連続攻撃してくんだろね。
あたしはガンマで加速しながら先頭のヤツギリギリまで接近する。向こうも面食らったみたいで対応が遅れたようだ。ぶつかる直前でほぼ90度横に移動する。とてつもないGが掛かるが、そこはおっぱいで耐えた。ワンテンポ遅れて先頭のデルタからフラッシュのような閃光が見えた。うわぁ、アニメに忠実にやってどーすんだよ? 横に回り込んだら3台とも丸々隙きだらけだ。咄嗟にコッチに向こうとしても、3台が詰まってるからスムーズに向けない。
そのままガンマで体当たりをかました。前の2台にはギリギリ逃げられたが、3台目のデルタにはまともにヒットした。ガッチリ掴んでスクラップの壁まで押し切ると、どえらい音を立てながら壁にめり込んだ。バチバチとデルタの関節辺りから火花が散っている。おそらくは行動不能だろう。残るデルタは2台だ。
『危ないっ
どうやら残る2台に左右に回り込まれたらしい。咄嗟にバックダッシュすると、直前までいた場所に左右から銃弾が打ち込まれるところだった。
ヤバイヤバイ、なんとか避けはしたものの、数発はボディに食らったっぽい。貫通までは至らないが、食らい続けると危険だ。
2台のデルタは微妙に位置を調整し、あたしを挟む形を崩さない。
その内、1台のデルタが銃を一旦収納し、新たに棒状の物を取り出した。
「えっと、誘導灯じゃなさそうだね?」
なんか、先の方がバチバチいってるし。
『アレ、多分ギア用のスタンガンだよ。注意して!
ええっ、中までビリビリくるの? ヤダよーっ。絶対、当たりたくないっ!
あと、名前なんとかしろ!
スタンガンを連続で突いてくるデルタ。大きく距離を取ろうとすると、もう片方のデルタが銃を撃ってくる。2体の連携はかなり慣れているようだった。
『接近戦だと不利だよ、
それはわかってるんたけど、そう簡単に行かせてくれないのよね。あと、名前な?
べったり貼り付いてくるスタンガンデルタが超ウザい。いい加減イライラしてきた。大きく旋回できないならその場でスビンすりゃいいじゃん? あたしは片足を上げてまるでスケートのようにその場で高速回転を始めた。
明らかにビビりながらもスタンガンを突いてくるデルタ。回転の勢いのまま足を突き出したら、物凄い回し蹴りみたいになった。
ガッコンっと大きな音と共にデルタが2、3メートルすっ飛んで動かなくなった。これであと1台!
最後のデルタはリーダー格のオッサンだ。右手にスタンガン、左手に銃と器用に両手を使って攻めてくる。
一旦、バックダッシュて距離を取り、すかさず前に猛スピードでダッシュする。突いてくるスタンガンを急旋回で回避しつつそのままバックまで回り込む。背後からデルタの右手を掴んだ。一旦相手を前に押し、掴んだ手を引っ張って強引に前向きにさせる。その勢いのまま、右手でラリアットを叩き込んだ。衝撃で見事に1回転するデルタ。
『すっごい! レインメーカー!!』
モニターから由衣の興奮した声がする。おお、このお嬢様、意外とプロレス好きとは恐れ入った。あたしと趣味が合うかもしれない。
が、勝利の余韻に浸る暇は無かった。重々しいエンジン音と共に、イプシロンがその姿を現したからだ。
ここからが本当の勝負だ。
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