第161話 少女達の包囲

「インヴィジブル」


 ミーリカはカイルへ魔法詠唱を行う。


「あなたは下がっていてください。相手からは姿は見えず、気配は感じられなくなる魔法をかけました」


「ありがとうございます!」


 カイルの返事にミーリカは静かに頷いた。


 (俺の声は届いているようだな)


 彼は礼を述べて再び後方へと下がる。


 (姿が消えた!?)


 ヤファスたちは視線の先で突如起こった事象に驚く。


 (あの女もギフトのようなものが使えるのか。なるほど、さっきカイルを守ったのもそういうことかよ)


 彼は一瞬眉をしかめる。


 (それにしても、あの騎士も平然と宙に浮かんでいた。二人ともギフトを使いこなしている……油断はできんな)


「お前たち、相手はマギアのようなものも使ってくる! 気を抜くな! 魔王との決戦のつもりで挑め!」


「「はい!」」


 ヤファスは聖剣を構え、少女たちは各々の武器を虚空から取り出す。


「サークリーゼと申します」


「ミーリカよ」


 二人は軽く言葉を交わす。


「あの騎士は俺が相手する。あの女はお前たちに任せた!」


 ヤファスが先行して駆け出し、少女たちがその後ろへ続く。


 直後、サークリーゼも正面に展開し、ヤファスと交戦を開始した。


「よぅ、さっきの続きといこうか」


「話が長かったので退屈していたところです」


 少女たちは二人の脇をすり抜け、ミーリカとの距離を詰めていき、三人で彼女を取り囲むように展開する。


「1対3は卑怯じゃないのかしら?」


「主の作戦にケチ付けないでちょうだい!」


 ゼシリカが怒気の混じった言葉を返す。


「その主? が言ってたのよ」


「気安く主と呼ばないで!」


 ミーリカへゼシリカの斬撃が襲い掛かる。


 剣先はミーリカの身体を捉えることができず、彼女を空中へと逃がしてしまう。


「宙に浮かぶなんて卑怯よ! 降りてらっしゃい!」


 ゼシリカは悔しそうな表情をしながらミーリカを見上げる。


 (あの女騎士は空を飛べない。これで実質2対1ね。さぁ、次は何を仕掛けてくるのかしら?)


「ステータスオープン」


 メフィアーネは小さく呟くが、ステータスウィンドウは現れない。


 (この世界ではヤファス様以外はステータスを確認できないようですわね)


 彼女は思考を巡らせる。


 (HPとMPの管理ができない……いいえ、ここで弱音を漏らしてはいけませんわ!)


「ゼシリカちゃん、わたくしに任せて!」


「メフィアーネちゃん、お願い!」


 メフィアーネは瞳をつむり、杖を両手で持ちながら魔法詠唱を開始する。


 (確実に放てるのは、メ級のマギアなら10回、テ級なら2回……)


「マギア、マギア。我が求めるは天より貫く雷なり」


 彼女の両目が、ぱっと開く。


「――メ・サンダロン!」


 紫電がミーリカの頭上目掛けて貫こうと襲い掛かった。


 ミーリカはプロテクションスフィアの魔法を展開する。


 雷は魔法障壁に当たると分散し、障壁に沿うように伝い流れ、威力を弱めながら消えていった。


「わたくしのマギアを防いだ!? ……ですが、まだですわ!」


 メフィアーネが再び詠唱を開始する。


「マギア、マギア。我が求めるは全てを燃焼させる業火なり」


「我が魔力、燃え盛る烈火の槍となりて、焼き尽くせ!」


「――テ・ファイロン!」


「――ペネトレイトファイア」


 双方から炎の槍が同時に放たれ、激しくぶつかった。


 (テ級なら負けませんわ! …………わたくしのマギアを相殺しようとしている!? いいえ!)


「わたくしの炎の勢いが……負けているですって!?」


 ミーリカの放つ魔法の勢いが徐々にメフィアーネの魔法を押し返していく。


 (このままでは……)


 メフィアーネは回避行動に移ろうとしたが、一瞬判断が遅れた。


 烈火の槍が迫る。


 直後、槍の軌道を遮るようにメフィアーネの正面に盾が突き立てられた。


 命中後、槍は高熱により金属製の盾から煙を発生させ、橙色の円を描き始める。


 円は徐々に大きくなり、盾を貫通させる勢いでみるみる溶かしていく。


 メフィアーネは盾を貫通するまでの僅かな時間差が生じたため回避できた。


「ベ、ベルナちゃん助かりましたわ」


「援護を!」


 ベルナは虚空から透明状の固い物体を空中に次々と呼び出していき、それを足場にしながら駆け上がっていく。


 地上にいるメフィアーネは彼女を援護するため、魔法詠唱を開始する。


 ベルナはミーリカとの距離を詰めていく。


「接近戦なら!」


 間合いに入るとナイフでミーリカへ斬りかかる。


 ベルナは足場でのみしか行動できないため、空中で自由に動けるミーリカにとって回避は容易い。


 回避行動に移ろうとした瞬間、身体に違和感を感じる。


 メフィアーネの魔法による手足の拘束だった。


「覚悟!」


 ナイフの刃先がミーリカへ迫る。


 その状況にもかかわらず、彼女は落ち着いた表情のままだった。


 ベルナが頭上に何かしらの気配を感じた瞬間、ミーリカを包み込むように金属製の板が降り注ぐ。


 彼女を守るような円柱が完成し、刃先は遮られ、さらに拘束は強制解除された。


 難を逃れたミーリカは詠唱しながら上昇していき、円柱から脱出しようとする。


 暗い円柱から視界が明るく広がった直後、真っ先にミーリカの視界に入ったのはベルナだった。


 彼女は人間一人がすっぽりと入るほど巨大なハンマーを両手で持って振りかぶり、姿を現したところへ叩きつけようと待ち構えていたのだ。

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