第160話 具申

「ここはヤファス様の世界なのでしょうか?」


 ゼシリカがヤファスに話しかける。


「そうと言えばそう、違うと言えば違う」


「どういうことですか?」


 ゼシリカが不思議そうに首を傾げた。


「俺の世界ではあるが、生まれたのは別の星ってことだ」


「理解しましたわ。この戦いが終わりましたら、ヤファス様の故郷の星へ連れていってくださいませ」


「私も行きたい!」


 メフィアーネにゼシリカも同調する。


「あぁ、約束する。だが、その前に一仕事済ませてからだな!」


 ヤファスがカイルたちへ対峙するように視線を向けると、メフィアーネとゼシリカも続いた。


「待ってください!」


 戦闘態勢に入る寸前、ベルナが制止するように声を上げる。


「なんだ、ベルナ?」


「今はどういう状況なのでしょうか?」


「状況はシンプルだ。俺たちの目の前にいるのが敵だな」


「先ほどから相手が攻撃を仕掛けてくる気配はありません」


「それがどうした?」


「何か事情があるのではないでしょうか?」


「……あれを見ろ」


 ヤファスが指差す先にはアルメリナが横たわっている。


「「ア、アルメリナちゃん!」」


 ゼシリカとメフィアーネが同時に声を上げた。


「アルメリナちゃん……どうして……。彼らが……彼らがやったのですか……?」


 ヤファスは静かに頷く。


「……許すまじき愚行ですね!」


 ゼシリカが全身を震わせて怒りを露わにする。


「状況は全てわかりましたわ。彼らは倒されるべき悪……というわけですわね」


「待って! 彼らが本当に敵対しているなら、こうしている間に我々へ攻撃を仕掛けているはずです」


 再びベルナが忍耐強く主張した。


「すでにアルメリナちゃんが犠牲になっているのよ!」


「そうですが! しかし……もしかすれば意思疎通で何か行き違いが発生しているかもしれません」


「あなたはわたくし達から見れば異世界の住人。アルメリナちゃんについても他人事……だから、そんなことが言えるのではないかしら?」


「そうではありません。一度、一度落ち着いて冷静になりましょう」


「彼女の言う通りだ! 俺は戦いに来たんじゃない。話し合いに来たんだ」


 会話を静聴していたカイルがついに声を上げる。


「ベルナ……」


 ヤファスがカイルの言葉を無視してベルナに近づいていく。


「一度彼らの話を聞いてから判断してもいいのではないでしょうか? うまく交渉できれば双方これ以上犠牲を出さずに済むかと――」


 ベルナの頬を話終わる前に右手のひらで叩き、乾いた音が空間に響く。


「俺はそういうのは求めてないんだよ」


 目を細めてベルナを睨みつける。


「も、申し訳ございません……」


 続けて彼女の胸倉を掴んで自身の顔の近くへ引き寄せた。


「お前は一体どっちの味方なんだ?」


「ぐっ……ヤ、ヤファス様です」


 ベルナが苦しそうに声を絞り出すのを見てようやく解放する。


「……次は殴るからな」


「はい……出過ぎた真似でございました」


「お前は魔王の一人娘だったな。俺が魔王を討伐したことをまだ恨んでいるのか?」


「強者の命に従うことは我々魔族の掟、恨んだことはただの一度もありません」


 ヤファスはベルナに背を向けて離れていく。


「だめだよ、ベルナちゃん。ヤファス様に逆らったら」


 ゼシリカがベルナに笑顔で近づいていき話しかける。


「お前には後でじっくりとわからせてやらねーとな、ベルナ」


 ヤファスがベルナに背を向けたまま話す。


「きゃー! お前には後でじっくりとわからせてやらねーとな! ですって! かっこいい!」


 メフィアーネが頬を薄赤く染めながら興奮冷めやらぬ様子で話す。


「えー! ベルナちゃんだけずるーい! 私にも、わ か ら せ て」


 ゼシリカも負けじとアピールする。


「おいおい、俺は一人しかいないぞ。……いや、同時にわからせればいいのか」


「その手がありましたわ! そこに気付くなんてさすがヤファス様ですわ!」


「まぁな」


 ヤファスは返事した後、カイルを一瞥する。


 カイルは一瞬目が合ったのに気付いたが、どういう意図なのか理解できず気に留めなかった。


 ヤファスはステータスウィンドウを生成し、メフィアーネの正面に展開させる。


「な、なんですの……こ、このステータスは……?」


「ん? どうした?」


「どうした? じゃありませんわ! カカカ、カンストしておりますのよ!」


「えっ? これってすごいのか?」


「すごいも何も今までで見たことはおろか、聞いたこともありません!」


「まさに規格外の才能です!」


 メフィアーネが驚愕し、ゼシリカが同調する。


「そうなんだ、俺は普通だと思うんだけどなぁ」


 そう言いながらヤファスは再びカイルを一瞥する。


 彼の表情には一瞬笑みが含まれており、これが紛うこと無き模範解答であるとカイルへ主張しているようであった。


 カイルは再び目が合ったことに気付くが、その真意を汲み取ることはできない。


「さすが、主! そうよね、ベルナちゃん?」


 ゼシリカが落ち込んでいるように見えたベルナを元気づけようとする。


 ベルナはゼシリカへ視線を合わせず、俯いたまま返事をしない。


「さすヤファ!」


「ふふふ、なんですの? さすヤファって?」


 ゼシリカが発した聞き慣れない言葉を急に発し、メフィアーネが微笑しながら反応する。


「さすヤファは、さすがヤファス様! の略だよ」


「ベルナちゃん、さすヤファ! だよね?」


「…………そうだ! さすが……さすが、ヤファス様! さす……ヤファ! さすヤファ! ははははは!」


 ベルナは一瞬間をおいてから吹っ切れたように満面の笑みを浮かべてゼシリカへ返事した。


「やったぁ! ベルナちゃんが元気になった!」


 ゼシリカもベルナへ微笑み返す。


「ゼシリカ、メフィアーネ、ベルナ……俺たちの絆の力で絶対勝利しよう!!」


「「はい、必ず!!」」


 三人の少女たちの声が揃って響いた。

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