第159話 草
宝石は強烈な光を放つ。
光の勢いが弱まるとヤファスの正面に展開するように、複数の美しい少女たちが横一列に並び立っていた。
「主の求めに応じ、ゼシリカ推参しました!」
最初に名乗った彼女は金属製の甲冑を身に着け騎士の風貌をしている。
「わたくし、エルティア王国の姫、メフィアーネと申しますわ。以後お見知りおきを」
純白のドレスに身を包み、上品に挨拶する姿は気品高い雰囲気を放つ。
「ベルナだ……」
一言そっけなく話す彼女は、黒を基調とした服装に身を包んでいた。
頭からは髪にほとんど隠されているが、小さな角のようなものが二本僅かに見える。
彼女が人間以外の種族であることを主張していた。
(また異世界から召喚したのか? 彼女たちの話す言葉は理解できるが……)
「軽い挨拶はここまで――」
「ねむい……」
その子は頭から猫のような耳の生えた幼い女の子で、一緒に現れた女性たちの半分ほどの身長である。
彼女は右手に剣を持ち、左手で目をこすりながら話す。
「ちょっ! ちょっと! なんでユムユムちゃんまで来てるの?」
ゼシリカがあたふたしながら声を上げた。
「わかんない」
ユムユムは眠たそうな表情に間延びした声を乗せて返事する。
「おー、ユムユム。俺の呼びかけに呼応して駆けつけて来てくれたんだな!」
(この子は俺のハーレム要員じゃないが……まー、細かいことはいい。4人来てくれたなら戦力として十分だ)
「わかんない」
「まー、全員じゃないが嫁ージングが集まった!」
「嫁ージングってなんですか?」
サークリーゼが問いかける。
「嫁とアメージングを掛け合わせたオリジナルネーミングだ! 説明させるな、恥ずかしい」
「確かにこちらまで恥ずかしくなりますね」
「……」
「こちらの殿方、ヤファス様を侮辱しましたわ。殺めてよろしくて?」
淑やかに話すメフィアーネが殺意を乗せてサークリーゼへ刺すような視線を向けた。
「おぉ!」
ユムユムが突然感嘆の声を上げる。
「ユムユムちゃん、どうしたの?」
ゼシリカがユムユムに視線を向けると、彼女の持つ剣の鍔の部分にオーブがはめ込まれており輝きを放っていた。
さらにオーブの中央には「w」という謎の模様が浮かび上がっている。
「これは何なのかしら?」
続けてメフィアーネが話しかけた。
「わかんない」
「――待って! オーブの模様が変化しましたわ!」
オーブは「w」から「草」という謎の模様に変わっていた。
「何かに反応しているのかしら?」
「わかんない。でもこれが出ると調子いい」
「ユムユム、その剣で戦えるのか?」
ヤファスがユムユムへ問いかけた。
「やってみる」
模様は「草」から「草ァ」に変化する。
「さっきの模様と似ているけど、若干違う」
メフィアーネは目をつむって思考を巡らせる。
「分かりましたわ!」
一同が突如大きな声を上げる彼女へ視線を合わせた。
「どういうことだ?」
ヤファスが問いかける。
「これはヤファス様の声に反応しているのです! つまり、真の勇者の力によってこの武器の真の力が解放されるということですわ!」
「なるほど、そういうことか! さすが王国きっての超難関名門学園で成績トップの頭脳だな!」
「お褒めに預かり光栄ですわ!」
直後、模様は「草ァ」から「草草の草」に変化し、その模様は剣身にも及んでいた。
「おぉ! 同じ模様が三つも! これ初めて見る!」
ユムユムが驚きながら模様に見惚れている。
「あの剣から途轍もないマギアの圧を感じます」
「えー、恐ろしいほどに……」
「マギア……確か君たちの世界での魔法の源だったな?」
メフィアーネとゼシリカの会話にベルナが加わる。
「ええ、そうです。これほどまでに強大なものは、わたくしも初めて見ます」
「私は別の世界の住人ゆえ何も感じないが、これは貴重なものが見れそうだな」
ユムユムは剣を両手で持ち構える。
「ユムユム! いけるか?」
「いけそう」
彼女はこくりと頷く。
「よし、ユムユム! お前も今日から嫁ージングの一員だ!! いっけぇぇ!!」
次の瞬間、オーブと剣の輝きが最高潮に達し、模様は新たな形に変貌を遂げる。
「大 草 原 不 可 避」
メフィアーネとゼシリカは、その剣から放たれる圧により立ち眩みを起こしそうになる。
ユムユムが「とてててて」と聞こえてきそうな軽い足取りでカイルたちへ向かって駆け出す。
途中で彼女は急に立ち止まる。
カイルたちは彼女の攻撃に備えた。
直後、爆音が周囲に木霊する。
ユムユムの持つ剣の剣身がカイルたちへ向かって射出されたのだ。
剣身は放物線を描く。
ぴゅー――――――ぽと……。
その場にいる全員が固唾を飲んで見守る。
「おわり。つかれた、ねる」
地面に落ちた剣身と彼女が手に持つ柄は虚空へと消え去った。
ユムユムは虚空から羽毛布団を呼び出し、おもむろに地面へ敷き始める。
カイルたちはその様子を静かに見守っていた。
準備が完了すると布団に潜り込んで両眼をそっと閉じる。
「おやすみ」
心地よさそうな表情を浮かべながら布団ごと虚空へと消えていった。
場が静寂に包まれる。
「………………気、気を取り直していきますわよ!」
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