第162話 少女達との戦闘

「クロノスドライブ」


 ミーリカが言葉を発した直後、ベルナのハンマーが彼女の頭上目掛けて叩きつけられた。


 柱の頭頂部へとハンマーが命中すると、波紋のように幾度も鼓膜を刺激する金属音が空間に鳴り響く。


 直後、柱はまるで土塊で造られていたかのようにぼろぼろと倒壊していった。


 地上にいるメフィアーネは虚空から傘を取り出す。


「ドレスが汚れてしまいますわ」


 彼女はゆったりと落ち着いた表情のまま、傘を自身の頭上へ展開する。


 空から金属片が傘へ降り注ぐが、素材は弾力性に富んでおり貫通することなく見事に弾いた。


「通り雨は去ったかしら?」


 メフィアーネの上空への視界は傘で遮られているため、少し斜めにずらして視界を確保する。


「よし!」


 空中でハンマーを振り下ろしたベルナが声を上げている。


 (確実に命中したはずだ)


 彼女は自身の周囲を確認するが、ミーリカの姿はどこにも見当たらなかった。


 (柱の倒壊に巻き込まれたか)


 肩に担いだハンマーが虚空へと消えていき、地上にいるメフィアーネに合流しようと足場を一歩踏み出す。


「ベルナちゃん、上ですわ!!」


 メフィアーネの呼びかけにベルナは即座に頭上を見上げた。


「アンダーマイン」


 (なぜ……? 確実に命中したはず。回避する隙なんてなかったはずなのに……)


 そう思考した直後、ベルナは脱力感を得る。


 ミーリカがふわりとベルナの目線の高さまで下降していく。


「な、何を……した?」


「どちらの話かしら? ……今さっきのなら、弱体化の魔法ね」


「くっ……」


「まだ続けるの?」


「も、もちろん……」


 ベルナは虚空から武器を取り出そうとする。


 (クリエイト能力が使えない!? ……彼女の弱体化魔法の影響か)


 次の瞬間、ベルナは全身が痺れたように身体へ力が入らず、足場から足を踏み外してしまう。


「「ベルナちゃん!」」


 地上へと落下していくベルナにメフィアーネとゼシリカが叫ぶ。


 地面へ激突する寸前でメフィアーネが魔法詠唱し、衝撃を吸収して事なきを得た。


「ベルナちゃん、しっかり!」


 メフィアーネがベルナに駆け寄り声をかける。


 ゼシリカは彼女らに駆け寄らず地上から空へ浮かぶミーリカの様子を窺う。


「すまない、弱体化の魔法をかけられてしまった。彼女……それ以外にも何かある。気を付けてくれ」


「何かと言いますと?」


「確かにハンマーは命中したはずだった。しかし、命中していなかった。理由は分からない……」


「わかりましたわ。後はわたくしに任せて後方に下がっていてください」


「ありがとう。動けるようになったら援護する」


「ええ――ベ、ベルナちゃん! 身体が!」


「ん?」


 ベルナは自身の手を確認すると、半透明になっており奥の景色が透けていた。


「こ、これはどういうことですの!?」


 メフィアーネが驚き慌てふためいている間にベルナの身体は透明度を増していく。


「……どうやら私はここまでのようだな」


 (私はこのまま死ぬのか? それとも元の世界に戻されるのか?)


「ヤファス様! ベルナちゃんが!」


 メフィアーネがサークリーゼとの交戦中のヤファスへ向かって叫ぶ。


 ヤファスは彼女の声に反応し、視線をベルナへと向ける。


「ベルナ!」


 彼の目に飛び込んできたのは、次第に消えていくベルナの姿だった。


「ヤファス様、お役に立てず申し訳ございません!」


 その言葉を最後に彼女の姿は完全に消え去った。


「よくも……よくもベルナを!」


 (くそ! クリエイト能力の使い過ぎで強制送還されたのか……?)


 ヤファスは前歯で下唇を噛みながら、眉間にしわを寄せる。


 (アルメリナの時のようにはいかねーか。……ゼシリカ、メフィアーネ持ちこたえてくれよ!)


 直後、ヤファスへ斬撃が襲い掛かった。


 サークリーゼの放つ斬撃へ咄嗟に聖剣で反応したものの、一瞬手が緩んで剣を手放してしまう。


 その隙を逃さず、サークリーゼは素早い連撃を放つ。


 ヤファスは即座に虚空から別の剣を取り出して斬撃を防いだ。


「武器の取扱いが豊富なんですね。武器商人なのでしょうか?」


「勇者だって言ったろ!」


「そう言えばそうでしたね。私、興味ないことはすぐ忘れてしまうようで……」


「もう思い出す必要すらなくなる!」


 ヤファスは軽い身のこなしで落とした聖剣を回収し、一旦間合いを取る。


 先ほど呼び出した剣を虚空へと消した後、身体能力強化のギフトを詠唱した。


「これで一気に決めてやる!」


 準備が整ったヤファスは再びサークリーゼへ詰めていく。


 両者とも空中には浮かばず地上で剣を交える。


「さっきよりも動きが良くなりましたね」


 攻撃を受け流しながら言葉を放つ。


「軽口を叩く割には回避する余裕がなくなってきたようだな」


 ヤファスが笑みを浮かべながらサークリーゼへ連撃を叩きこむ。


 その全ての攻撃を剣で受け、ヤファスの手が止まった一瞬の隙にサークリーゼは左手を彼の正面へかざす。


 直後、突風が発生し、その風圧でヤファスが吹き飛ばされる。


 距離が開いたのを見計らってサークリーゼも身体能力強化魔法を付与した。


 再び剣戟を連ねる。


 目にも留まらぬ速さで繰り出す斬撃がぶつかり合い、高調子の音色を奏でた。


 音色は一定のリズムを刻み、まるで楽器が奏でる演奏のようでもあった。


 (こいつさっきと動きが違う……こっちは身体能力が強化されているのに……くそ!)


 理想の展開にならないヤファスの表情には焦りと苛立ちが滲み出始めていた。


 彼のほんの僅かな変化をサークリーゼは見逃さない。


 サークリーゼが風を操る。


 二人の奏でる演奏に風が加わった。


 ヤファスが体勢を崩す。


 (くっ! こいつまた風を!)


 ついに回避不可能の一撃がヤファスの身体へ迫る。


「主はやらせません!」


 命中する直前、両者の間にゼシリカが割って入った。


「ほー、そういうこともあるのですね」

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