第125話 城内

 部屋の中は光源がなく真っ暗だった。


「ライト」


 サークリーゼが魔法詠唱すると、周囲が明るく照らされる。


 部屋の中に格納されている金銀財宝が光で照らされて煌びやかな輝きを放つ。


 サークリーゼはそれらに目もくれず、複数に分かれている部屋のうちの一つへと入っていく。


 光源から離れる度にライトの魔法を再詠唱していく。


 部屋には壁一面に武器や防具が並べられており、その一つ一つに名前の札が付いていた。


 さらに部屋の奥へ進むと扉があり中に入る。


 今度は大小の金属製の箱が規則正しく並べられており、奥に金属製の扉があった。


 扉を開けて中に入ると、ようやく立ち止まる。


 魔法の光源で照らすと周囲の壁、天井と床全てが真っ白い部屋になっていた。


 その中央に剣と鎧が三組鎮座しており、サークリーゼはそのうちの一組に近づく。


 まず、剣が格納されている鞘を手に取ると剣を抜く。


 宝石のように透き通った瑠璃色の剣身が光源に照らされて美しい輝きを放つ。


 一通り剣の感触を確認した後、剣と対になっている鎧を装着し始めた。


 (これで最初の目的は達成ですね)


 新たに入手した剣は腰に備え付け、シュバリオーネとマキア・セレスを両肩にそれぞれ備え付ける。


 剣と鎧の装備が完了したサークリーゼは次の目的地を目指す。


 部屋から出ると地上へ上がる階段に向かう。


「おい! 扉が開いているぞ!」


 サークリーゼが最初に鍵を壊した扉付近で警備兵らしき人間の声がする。


 彼は何も聞こえなかったかのように歩みを止めない。


 やがて扉からサークリーゼが出てくると、声の主たちと対峙する。


 扉付近には二名の甲冑に身を包んだロムリア王国騎士団員がいた。


「動くな!」


「邪魔です」


「賊がぁぁ!」


 騎士団員たちは剣を抜いて一斉にサークリーゼへ斬りかかるが、刃こぼれが目立つシュバリオーネによって一瞬で切り捨てられる。


 再び地下にサークリーゼの足音のみが響き、その音は階段へと向かっていく。


 地上へ出ると視界が一気に明るくなった。


 城内地上へと出たサークリーゼは、さらに上の階を目指す。


 歩き始めようとした時、彼の正面に城内の警備を担当しているレティルス直属部隊が地下の騒ぎを聞きつけ集まって会話している。


 彼らはサークリーゼの存在に気付き、即座に数人で取り囲む。


「お前は! サークリーゼ! 生きていたのか!」


 取り囲んでいる騎士団員の一人が話しかける。


「そんなに驚くことはないでしょう」


「その装備……王国への反逆という大罪のみならず、貯蔵品まで盗み出す賊になり下がったか!」


「いちいち説明するのも面倒なので、そういうことで構いません」


「拘束する。我らレティルス騎士団長直属の精鋭部隊に見つかったのが運の尽き。覚悟しろ!」


 三人の騎士がほぼ同時にサークリーゼへ襲い掛かる。


 騎士の斬撃を先ほど入手した剣で受け止めた。


 すると、騎士の金属製の剣身はまるで紙になったかのように切り裂かれて二つに折れる。


 二人目、三人目も怯まず斬りかかるが、結果は同じだった。


「レティルスには昔のよしみもあります。抵抗しないのなら命までは奪いません」


 三人の騎士は戦意を喪失し、その場にうな垂れる。


 サークリーゼは彼らの間を悠然と通り抜け階段を目指す。


 階段を上がり、廊下を歩き、また階段を上がる。


 それを何度か繰り返した後、王の間の前に到着した。


 サークリーゼの正面に装飾が施された大きな扉が立ちはだかっている。


 その扉に手をかけて力を込めると、扉はゆっくり開く。


 扉の奥、王の間が視界に入ってくる。


 部屋の奥に空席の玉座があった。


 中に入り周囲を見渡すが、王どころか誰一人いる気配はない。


 サークリーゼはさらに部屋の奥へと進んでいく。


「サークリーゼさん……」


 突如、柱の傍から声が聞こえてくる。


 サークリーゼは声のする方へ視線を向けた。


 柱の奥から人影が現れる。


「レティルスですか……立派になりましたね」


「……俺はあなたに憧れてロムリア騎士団に入ったんです」


「それは初耳ですね」


「俺だけじゃない。皆、部下思いの優しくて強いあなたに憧れていたし、慕っていました」


「そう言ってもらえると光栄です」


「なのにどうして…………」


 レティルスの問いかけにサークリーゼは返事をしない。


「あなたの事情や家族のことは事件の後で知りました……けど、当時の俺ではどうすることもできませんでした……」


「レティルス、自分を責めないでください」


「俺は……俺はサークリーゼさんとは戦いたくないんです!」


 レティルスは悲痛な表情を浮かべる。


「私もあなたとはできれば戦いたくありません」


「それなら……ここは引いてください」


「……それはできない相談です」


「……この戦争やあなたの一件にイラベスク商会が絡んでいることは薄々感づいています」


「それを把握して商会に味方するのですか?」


「いえ、商会のためではありません。……王と民を守るためです」


「私は守るべきものを守れなかった」


「サークリーゼさん……」


 レティルスは自分の使命とサークリーゼの心情を汲み取る間で葛藤する。


「……この戦いには何の意味もありません。もう止めましょう」


 この言葉がレティルスの最後の譲歩であり、サークリーゼが申し出を断るならば非情な決断をせざるを得なかった。


「あなたには国を守る使命がある。そして、私にもまた果たさねばならぬことがあります」


 両者の間に沈黙が流れるが、直後にサークリーゼが入ってきた扉が開き破られた。


「レティルス騎士団長!」


 レティルス直属の騎士団員が続々と王の間に入ってくる。


「ここは俺が引き受ける。お前たちは引き続き帝国軍の動向に注視しろ」


「しかし!」


「お前たちが相手するのは帝国軍だ。ここで、いたずらに貴重な戦力を消耗するわけにはいかん」


「はっ!」


 威勢よく返事すると、騎士団員たちは王の間から出ていった。

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