第124話 城地下での戦闘
城の地下は光源が松明の明かりのみであるため非常に薄暗い。
剣筋が分かりにくく、一瞬の判断の誤りが致命的となりかねなかった。
その状況でカミールはフルプレートアーマーに身を包む完全武装に対して、サークリーゼは軽装である。
サークリーゼは圧倒的に不利であったが、マキア・セレスの剣身自体がほのかに赤く発光しているため、剣筋をとらえる目安程度にはなった。
カミールの斬撃がサークリーゼを正確にとらえる。
その動きは重装備であるにもかかわらず、まるで布の服を着ているかと錯覚するような軽い身のこなしだ。
これは装備の性能によるところもあるが、加えてエンチャント能力でカミール自身の身体能力も強化されているためだった。
サークリーゼは斬撃を悠々と回避し、間合いを取る。
「さすがに初手の一撃で……というわけにはいかんか。装備を過信しすぎるものではないな」
「いい動きですね。あなた自身なのか、その装備のおかげなのかは分かりませんが」
「両方だ」
カミールは一瞬で間合いを詰めて、サークリーゼに斬りかかる。
しかし、彼の身体を捉えることはできない。
サークリーゼは回避と同時に真上に飛び上がる。
直後、城の石壁を蹴り上げて宙に浮くと、カミールを飛び越えて彼の背後に回り込む。
着地と同時に彼の背後から斬りかかった。
シュバリオーネの斬撃がカミールの鎧に命中する。
しかし、傷は全くつかないどころか、シュバリオーネの剣身に微細の刃こぼれが生じた。
すかさずカミールが反撃する。
サークリーゼは剣で斬撃を受けると、さらに刃こぼれした。
「魔法は使わないのか? 出し惜しみしてると、その武器共々くたばっちまうぞ」
「あまり派手なことをすると、上の階の住人たちから苦情が来そうなので遠慮しておきます」
「その余裕がいつまで続くか!」
カミールは渾身の薙ぎ払いを放つ。
剣で受け止めると、シュバリオーネに一目で分かるほど大きな刃こぼれができる。
サークリーゼは一旦後ろに下がると、カミールも間合いを取った。
「その装備、完全には使いこなせていないようですね」
「あからさまな挑発には乗らん」
カミールは現状、サークリーゼに圧し勝っていると判断している。
このまま冷静に対処していけば、勝利をもぎ取れると確信しつつあった。
また、戦闘が長引くほど、騒ぎを聞きつけて上階からの救援が到着する可能性が高くなる。
相手の挑発に乗る必要は全くなかったが、一部真実も含まれていた。
サークリーゼは確信を持って述べたわけではなかったが、カミールが装備を使いこなせていないという指摘は一部的中していたのだ。
名剣マキア・セレスと名鎧ノムドのエンチャント能力には身体能力強化以外にもいくつかあった。
身体能力強化以外のエンチャント能力全てが現状発動できないが、その理由はカミール本人も理解していない。
この事実はサークリーゼと戦う前から把握していたが、並の装備よりも基本性能で圧倒的に優っているため、大した問題ではなかった。
カミールは連続で斬撃を繰り出す。
サークリーゼは剣で受けずに全て軽い身のこなしで躱していく。
「時間稼ぎしているのですか?」
サークリーゼは斬撃を躱しながら話す。
カミールは問いかけには応じず、斬撃を加えていく。
「傭兵ともあろう者が救援待ちとは……しっかり仕事しないと報酬もらえませんよ?」
サークリーゼは微かに笑みを作る。
彼の返答はサークリーゼの頭上への力を込めた振り下ろしだった。
その斬撃を剣で受け止め、いなすと間合いを取る。
「なんとでも言え。戦闘が長引くほど、あんたが不利になっていく」
「不利……ですか。そろそろ、こんな薄暗いところからは出たいですね」
「癪に障る言い方ぁ! あんたを敵に回すと、つくづく理解した!」
「おや、挑発には乗らないのではなかったのですか?」
「なんと言おうが、あんたにこの鎧を貫くことはできん!」
直後、カミールは斬撃を繰り出すが、サークリーゼは彼の攻撃をシュバリオーネで弾く。
その衝撃でカミールはマキア・セレスを手放す。
剣は弧を描いて回転しながら飛んでいき、二人から離れた地点へ落下した。
「剣がなくともぉぉ!」
カミールは怯むことなく殴りかかる。
流れるように素早く繰り出されるパンチとキックの連撃がサークリーゼを襲う。
その全てをサイドステップとバックステップを駆使して回避する。
連撃の勢いは徐々に増していき、攻撃の何発かがサークリーゼの頬を掠った。
サークリーゼも剣で反撃するが、名鎧には傷一つ付けられない。
勢いに乗ったカミールが繰り出すパンチは、ついにサークリーゼの顔面に命中する。
命中後、すかさず回し蹴りで腹部を狙う――命中。
間髪入れずに連撃を放つ――突然カミールの連撃が止む。
カミールの背中から鋭い刃が突き出ており、松明の光で鈍く反射している。
彼の腹部には鎧を貫通してシュバリオーネが突き刺さっていた。
「な……ぜ……?」
「見積もりが甘かったですね」
「俺も……焼きが回ったか……」
「依頼受注時に報酬以外の要素にも気を配る必要がありましたね」
「気は配ったんだがな……」
サークリーゼは返事せず、カミールがそのまま言葉を続けた。
「あんたに恨みはない……助けて……くれ……イラベスク商会……倒したいん……だろ?」
「裏切者に慈悲はありません」
シュバリオーネを引き抜くと、カミールは力なくうつ伏せで石床へと倒れこんだ。
彼の身体を中心に血だまりがゆっくりと形成されていく。
カミールはうつ伏せのままサークリーゼへ右手を伸ばそうとする。
だが、その手は途中で力尽き、地面へ引っ張られるように下がっていく。
手が地面に接触すると動かなくなり、カミールはそのまま息を引き取った。
サークリーゼはマキア・セレスと鞘を回収すると、再び当初の目的の扉へと向かう。
扉の鍵を破壊して部屋の中へと入る。
その部屋の奥にはさらに扉があり、そこにも鍵がかかっていた。
鍵を破壊して扉を開けると、さらに地下への階段が続いている。
階段の先には、また扉があり同じく鍵がかかっていた。
三度鍵を破壊して、ようやく目的の部屋に到着する。
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