第104話 エルフの町襲撃 2

 カイルは騎士から間合いを取ると、騎士も一旦後ろへ下がる。


 直後、カイルの体のすぐ横をアイリスのファイアボルトが通過し、騎士の鎧へ着弾した。


 鎧に着弾した炎は即かき消える。


 (やっぱり鎧に炎は効かない。おそらく氷もだめ。雷なら――)


「お嬢さん、この矢に付与ってできますか?」


 ロミリオはアイリスのいる後方まで下がっていた。


 彼女は頷き、ロミリオの矢にエンチャントサンダーを付与する。


 ロミリオは礼を言い、弓の弦を引き構えた。


 彼は狙いを漆黒の騎士に定め矢を放つと、騎士へ吸い込まれるように飛んでいく。


 命中――する直前で漆黒の騎士は矢柄を手で掴み受け止める。


 アイリスとロミリオは遠距離攻撃が通用しないことを把握し、別の方法を模索する。


 掴んだ矢を放り捨てると、漆黒の騎士は再び手をかざす。


 (また謎の光か? くっ、こっちは攻め手に欠ける……決定打が見いだせない)


 カイルは警戒しつつ対抗手段を考える。


 (あの光を一撃でも受けたら終わりだ。……まずは凌ぐ。あの光の攻撃を俺に固定させる)


 カイルは再び騎士と間合いを詰めようと考え始めたのと同時に、十個の光球が漆黒の騎士の周囲に現れた。


 (なんだ? さっきとは違う? ……まさか!)


「みんな俺の後ろへ一列に並べ!! アイリス、もう一度プロテクションを!」


 レイジーン、ロミリオはカイルの指示通りに動き始めた。


 (たぶん間に合わない)


 そう判断したアイリスは、その場を動かず魔法詠唱を始める。


 カイルは後ろを振り返らず、光の攻撃を中断させるため騎士との間合いを詰めていく。


 (くっ! 間に合ってくれ!)


 しかし、攻撃を中断させる斬撃を加えるには、まだカイルと騎士の間に距離があった。


「マルチプロテクション」


 アイリスによる魔法詠唱の直後、騎士の周囲の光球からもそれぞれ光の矢が放たれ、カイルたちに襲い掛かる。


 同時にカイルたち一人一人に矢を遮る位置へ魔法障壁が展開された。


 光の矢は魔法障壁に当たり消滅する。


 カイルは後ろを一瞬振り返り、皆が無事なことを確認する。


 安心した束の間、すぐに次の一手を模索しはじめた。


 騎士の手から放たれる光の矢とは違い、光球から放たれる光の矢は一度のみではない。


 光球は矢を放つ度に位置を変え一定の間隔で放たれ続けている。


 それは水平垂直と十字を描くような動きでかつ不規則であったが、前後に動くことはなくカイルたちへ距離を詰めてくることはなかった。


 (魔法障壁は長くもたないから何か手を考えないと)


 アイリスは思考を巡らす。


 (光……光を封じる……封じる……あっ!)


 なおも光の矢は放たれ続けている状況で、漆黒の騎士はカイルへとゆっくり間合いを詰めていく。


「フォグ」


 再びアイリスの魔法詠唱。


 霧が漆黒の騎士の周囲と、光球の前面に展開された。


 光球から放たれる光の矢はフォグの霧の効果によって阻まれ、カイルたちには届かなくなった。


 さらにフォグは漆黒の騎士の視界を奪う。


 (初歩の魔法だけど、効果あったみたいね)


「カイル! 私たちの方へ走ってきて!」


 アイリスの呼びかけに反応し、カイルは踵を返して自身の後方にいる彼女へ向かい駆け出す。


 (この魔法は魔力消費量が大きい……)


 カイルが全力で走ってくるのを見てアイリスは、魔法詠唱することを決断した。


 (迷ったらダメ! ここで私がやらなくちゃ……カイルが! みんなが!)


 光球は消えてなくなると、それからすぐフォグの効果も切れていく。


 霧は徐々に薄くなり、漆黒の騎士の輪郭が露わになる。


「我が魔力、爆ぜる力へと収束せよ、来たれ破壊の爆炎! エクスプロード」


 突如、漆黒の騎士の足元付近が爆発する。


 轟音が鳴り響き、騎士は爆炎と煙に包まれた。


 カイルはアイリスたちの元へ合流する。


「ロミリオ、これを使ってくれ」


 カイルはカバンから以前レスタから再び仕入れていた特製音玉を二個取り出しロミリオに渡した。


「分かりました!」


 ロミリオは即座に、そして器用に矢を改造して特製音玉を先端に取り付けていく。


 前回カイルが使用した音玉に比べて小型であるため爆発力はかなり劣るが、矢の先端には容易に取り付け可能であった。


 カイルたちは漆黒の騎士の動静を見守る。


 騎士を包む煙が消えていくと――漆黒の騎士はまだ立っていた。


 剣に損傷はなく無事だが、鎧には細かな亀裂が入っている。


 漆黒の騎士はゆっくりと剣を構えた。


「まだ動けるのか! レイジーン合わせてくれ!」


「分かった!」


 カイルとレイジーンは剣を構え、漆黒の騎士へ駆け出す。


 アイリスはロミリオの改造音玉矢の導火線にファイアボルトで着火した。


 二人が駆け出した直後、矢が二人の隙間から追い越し、漆黒の騎士の兜へ命中する。


 直後、小爆発が発生すると、兜にもひびが入った。


 間合いに入るとレイジーンが先に仕掛ける。


 ショートソードで鎧にひびが入っているところへ当てて破壊を狙う。


 それを読んでいた漆黒の騎士は、阻止しようと斬撃を繰り出す。


 騎士の斬撃をレイジーンはショートソードで受けると、剣身はぼろぼろと崩れた。


 レイジーンは一瞬笑みを浮かべ、バックステップで後方へ下がる。


 直後、ロミリオの矢が再び漆黒の騎士の兜へ命中し、小爆発を起こす。


 爆発で怯む漆黒の騎士へ、カイルは一気に間合いを詰め、鎧へ斬りかかり命中させた。


 鎧の一部を破壊された漆黒の騎士は、今度は自身の間合いに入ったカイルへ刃を向ける。


 互いの剣がぶつかった瞬間、漆黒の騎士は先の爆発による負傷で手を滑らせ、ついに自らの剣を落とす。


 カイルは剣を振り上げて、さらに追撃を加える。


 頭部に命中し、ひびの入った兜は割れて崩れ落ちた。


 漆黒の騎士の素顔が露わになる。


「――――ヒースラルドさん!」


 漆黒の仮面に隠されていた素顔は、レオニードの弟、ヒースラルドだった。


「…………カ……イ……ルさん…………なぜ……? 私は……いったい……」


「ヒースラルドさん、直前のことは覚えていますか?」


「いや……何も覚えていない……なぜ私がここにいるのかも分からない……」


 (ということは装備品の呪いだったわけか)


「覚えていないのは装備品に付与された呪いが原因です」


「呪い……?」


「はい。さらに呪いで操られていたようです」


「そう……だったのか……」


「けど、俺たちが兜を破壊して呪いは解けたのでもう大丈夫です」


「……ありがとう、カイルさん――」


 そう言うと、ヒースラルドは突然崩れ落ちた。


「大丈夫ですか! ヒースラルドさん!」


「ぐっ……」


「アイリス、治癒魔法を頼む」


 アイリスは魔法詠唱しようとするが発動しなかった。


「ごめんなさい、カイル。私、魔力の使い過ぎで今は治癒魔法が使えないみたい」


「あの戦いの後だからな、無理言ってすまない」


「うん、ごめ――」


 直後、アイリスがよろける。


「アイリス!」


 カイルが咄嗟に倒れそうと判断したアイリスの体を支える。


「お、大げさだよカイル。ほら、みんな見てるから……ね。少しだけ休ませて」


 カイルたちはヒースラルドを商館へと運ぶ。


 彼の鎧を外した後、ベッドへ寝かせる。


 祝宴の賑やかさ、戦いの物騒がしさが夢だったかのような静寂が訪れた。

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