第103話 エルフの町襲撃

 ――後日。


 カイル、アイリス、レイジーンの三人は完成予定の船を受領するため、再びエルフの森へ向かう。


 まずは商館を目指し、到着するとロミリオが出迎えてくれた。


 彼は船受領の前に完成の祝宴を開きたいとカイルたちに提案する。


 カイルたちは喜んで同意した。


 ――後日、祝宴開催日の夕方。


 ロミリオの商館にはエルフの各村の村長やドワーフの造船関係者が続々と集まってきていた。


 皆が揃うと祝宴が始まり、商館は賑やかな雰囲気に包まれる。


「カイルさん、先日は無礼な対応をしてしまい申し訳ない」


 カイルとの交渉を断った村の長たちは、次々と謝罪の言葉を述べていった。


「こちらこそ、事情も把握せず無理難題を持ち掛けて申し訳なかったです」


「では、お互い今日は楽しみましょう!」


 カイルたちはエルフやドワーフたちと会話を重ね、徐々に打ち解けていった。


「エルフとドワーフって仲悪かったんじゃなかったのか?」


「仕事を通じて打ち解けたのかもな」


 祝宴が始まり半ばを過ぎた頃、空には漆黒が広がり綺麗な星々が瞬いていた。


 会場に料理と酒が運ばれてくる。


「美味しそう!」


 アイリスは次々運ばれてくる料理に目移りしている。


「皿へ自由に取って食べる形式みたいだな。早く食べよう――」


 カイルたちが料理の並べられたテーブルへ向かおうとした瞬間、会場は急に静まり返った。


「なんだ? どうしたんだ?」


 レイジーンがきょろきょろと首を動かす。


 カイルとアイリスも状況を把握するため周囲を確認するが、その間にエルフたちは次々に部屋から出ていく。


 カイルたちは状況が分からぬまま、ぽつんと取り残された。


「カイルさんたちも早く!」


 ロミリオが部屋の扉の傍へ立っており、そこからカイルたちに呼びかける。


「ロミリオ、いったいどうしたんだ?」


「モンスターの襲撃です。町に迫ってきています」


「なぜ分かるんだ?」


「エルフの感です」


 カイルたちはロミリオと共に商館の外へ出て、広場へと移動する。


「どうやらモンスターはレッサーデーモンのようですね」


 ロミリオは森の上空を飛翔する二十体ほどのモンスターの群れを見上げながら話す。


「レッサーデーモン?」


「はい。エルフの森のこの町にだけ、たまに飛来し襲撃してくるモンスターです」


「なぜこの町だけなんだ?」


「他の村と違い開けた土地にあるので、空から見えやすいのでしょう」


「そういうことか。俺も手伝うぞ」


「いえ、大丈夫です。僕とエルフの戦士たちで対処できます」


 ロミリオとエルフの戦士たちは、弓矢による正確な射撃でモンスターを一体ずつ射貫いていく。


 カイルたちも応戦しようと武器を取りに行くが、戻ってきた頃にはレッサーデーモンは撤退していた。


 カイルの視界に倒されたレッサーデーモンが入る。


 皆、槍を携え、人間ほどの身長で頭に角が二本あり、背中には羽が生えていた。


「見事な射撃だったな」


「ありがとうございます。奴らは三分の一ほど倒されると撤退します。グレーターデーモンかと思って一瞬緊張しましたが――」


 ロミリオは話の途中で固まる。


「ん? どうし――」


 カイルは彼が固まった理由にすぐ気付く。


「グレーターデーモン! 噂をすると……みんな逃げて!!」


 ロミリオの合図でエルフの戦士たちは一斉に撤退する。


 (大きいな。姿は似ているが、さっきの倍以上あるぞ……)


「今度は手伝うぞ」


「気を付けてください。エルフの森を襲撃するモンスターの中で最強です。エルフの戦士たちが幾人も犠牲になりました」


 ロミリオが神妙な面持ちで話す。


「俺も加勢するぞ」


 レイジーンもカイルの隣に立つ。


 カイルは後ろを振り返ってアイリスへ首を左右に振り合図した。


 (まだ魔法は使うなってことね)


 アイリスは頷いて返事した。


「僕が奴を引き付けますから隙を見てカイルさんと、えっと……」


「レイジーンだ」


「カイルさんとレイジーンさん、お願いします」


「来るぞ!」


 大槌を持ったグレーターデーモンは、カイルたち目掛けて巨体を揺らしながらゆっくりと歩き始める。


 しかし、数歩進むと動きが止まった。


 ――直後、モンスターの両足が地面に対して水平に切断され、足から上が崩れ落ちた。


 それでもなお地面を這いずりながら動くモンスターの頭上へ鋭い刃が突き刺さる。


 その一撃でグレーターデーモンは微動だにしなくなった。


 一瞬の出来事にカイルたちは状況を整理しようとする。


 間髪入れず気付く――モンスターの傍に影があることを。


 その影は人の形をしており――いや、影ではないことに気付く。


 正体は漆黒の騎士だった。


「はっ? なんでこいつがここに!?」


 カイルは驚愕しつつも応戦の構えを見せる。


「味方か?」


 レイジーンが呟く。


 漆黒の騎士は剣を横振りしモンスターの返り血を払い、カイルたちと剣を構え対峙する。


「んなわけねーよな」


 彼は再び呟く。


「カイル、気を付けろ。奴の剣は武器破壊のエンチャントがついてる」


 レイジーンが隣に立つカイルに話しかける。


「知り合いか?」


「あぁ、前に一度戦ったことがある。無口でいけ好かない奴だった、とても友人にはなれねーな」


「同感だな」


「それとカイル、奴の剣に触れてもサークリーゼの剣は破壊されなかった」


「なぜだ?」


「知らん。年代物だからとかじゃねーのか? だが、もしそうだったらカイルの剣なら破壊を無効化できるんじゃ――」


「レイジーン、来るぞ!」


 漆黒の騎士はカイルたちに手を開き掲げると、手のひらに光が収束していく。


 (謎の光で貫かれる!)


「アイリス! 俺にプロテクションを!」


 同時にカイルは漆黒の騎士へ駆け出す。


「プロテクション」


 カイルの正面に魔法障壁が展開された直後、ストライクレイが放たれた。


 光は魔法障壁に命中すると、拡散して消える。


 カイルは間合いを詰め、斬撃を繰り出す。


 騎士は斬撃を剣で受け止めると、金属音が鳴り響く。


 (壊れない! この剣なら対応できる!)


 さらにカイルは斬撃を繰り出す。


 今度は漆黒の騎士の鎧を掠るが、手応えは全く感じなかった。


 (フルプレートアーマー相手に剣では不利だ)


 カイルと漆黒の騎士は斬撃の応酬を繰り広げる。


 磨きがかかった剣術、そこへ新武器の性能が合わさることで漆黒の騎士とほぼ互角に渡り合っていた。


 カイルは初対峙時に漆黒の騎士へ抱いていた恐怖に打ち勝つ。


 (今接近して仕掛けても武器を破壊されるだけだ。なら今の俺にできることはなんだ?)


 後ろでレイジーンは二人の攻防を注視しつつ考える。


 (くっそ! 何も浮かばねー! こんな時に何もできないとは! 傭兵の俺が!)


 傭兵でありながら無力な状況に置かれた彼は苛立ちが募り始めていた。

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