第80話 土地の確保と開店申請

 ――翌日。


 カイルは宿の部屋で三号店の検討をし始めていた。


 (先に土地だけ確保しておいて王都へ開店申請を出しておくか)


 ポートリラの店舗はロムトリアの店舗よりも規模が小さい。


 さらに相場も安いため開店に必要な資金を抑えられた。


 その為、カイルにはまだ資金に余裕がある。


 彼はさっそく土地確保に動き出した。


 王都内で大通りに面しているような人気の土地は非常に高額であり、空きがでることも滅多にない。


 立地には妥協して、そこそこ客入りが見込めつつも手頃な価格という条件で探し始めている。


 (……そんな都合の良い土地なんてないよな……)


 カイルは数日かけて情報収集を行うが条件に見合うものは見つからない。


 しかし、彼の情報収集も全くの徒労に終わったわけではなかった。


 (新開発エリアか)


 王都では現在更地になっているエリアを開発中であるとの情報を入手した。


 その中には商業区画が入ることも計画されているとのことだ。


 王都にしては出店費用を安価に抑えられるため、ここに出店したいと検討し始める。


 もちろん懸念材料もあった。


 新しいエリアになるので客入りが未知数なのだ。


 また、このエリアが人気になるとは限らず、施策自体が失敗に終わる可能性もある。


 カイルは新エリアの情報収集を始めるが、人気になりそうな土地は既に確保されていた。


 (それでもこの価格で王都に出店できるのは魅力的だ。今後こういう機会はそうそうないだろうな)


 エリアが人気になれば、結果的に投資は成功となる。


 カイルは堅実さも重要だが、時には思い切った行動も必要だと考えていた。


 そして、今がその時だと直感する。


 (よし、土地を確保しよう)


 残っている土地で、かつ予算内で入手できる最も立地が良さそうなところを確保した。


 さらに数日調査し、無事に土地確保の手続きを終了させる。


 ――翌日。


 カイルは午前中に役所へ開店申請を提出しに行った。


 手続きは明日終了するので、明日再度役所を訪問する予定である。


 (王都に帰ってきたし、マグロックさんにも挨拶しておこう)


 役所へ行った帰りに徒歩でマグロックの事務所を訪ねる。


 扉をノックし、しばらくすると中からマグロックが現れた。


「おー! 王都に来てたのか」


「はい」


 カイルは部屋の中へ入り、マグロックから椅子に座るよう促される。


 マグロックも椅子に座り二人は談笑を始める。


「久しぶりに王都に来た気がします」


「まー、店がロムトリアにあるからな。仕事や用事がなければ来る機会も減るだろうよ」


「一時期ずっと王都にいたんですけどね」


「そうだったな」


 二人はギルド マグロックでの仕事の日々を思い出し、会話に花を咲かせる。


「王都に来たのは買付か?」


 カイルは土地を買うために王都へ来たと話す。


 また、その土地は新開発エリアであることも付け加えた。


「おー、今開発中のな。そこに出店するってことだな。……なかなか大胆なことするな」


「こんな機会は滅多にないと思ったので」


「そうだな、時にはそういった思い切りも大事だ! ……ワシ前にもそんなこと言ったっけな?」


 マグロックは腕を組みながらカイルに話す。


「確か言ってたと思います」


「じゃー、二店舗目ってことだな」


「いえ、三店舗目になりますね。二店舗目はポートリラに出店予定なんです」


「そうだったのか! カイルがここに来るたびに驚かされてる気がするぞ」


 二人は夕方まで会話を楽しんだ。


 ――翌日の昼頃。


 カイルは役所へ向かう。


 昨日出した開店申請の許可はまだ下りていなかった。


「本日手続きが完了すると聞いていたのですが……」


「はぁ、遅れているみたいですね」


「遅れているのなら待ちます」


「そうですか」


「三日後にまた来ます」


「わかりました」


 (たぶん忙しいんだろうな)


 明日、アイリスと合流して王都を出発する予定だった。


 その為、本日までに土地の入手と開店申請手続きを済ませておきたかったのだ。


 (少し出発が遅れそうだな)


 ――翌日の朝。


 カイルはアイリスの実家へ向かう。


 彼女の両親に挨拶しアイリスと合流する。


「ねぇ、カイル」


 街中を歩きながらアイリスは隣のカイルへ話しかける。


「ん?」


「家に来た時、緊張してたのは、もしかしてカイルと一緒に行くのを反対されると思ったから?」


「……当たりだ」


「まる」


「なんだよ急にまるって?」


「正解したからまるなの」


「まる」


 カイルもアイリスの真似をした。


 アイリスは両手の人差し指をカイルの目の前で小さくクロスさせる。


「ばつ」


 アイリスはカイルにだけ聞こえるような小声でささやく。


「審査員の評価が厳しすぎる」


「ふふふ」


「本当に実家の方はいいのか?」


「ちゃんと話してあるから大丈夫だよ」


「これまで以上に帰ってこれなくなるかもしれないんだぞ?」


「うん、それでも大丈夫」


 アイリスはカイルに微笑む。


「いったいなんて言って両親を説得したんだ?」


「それは秘密ー」


 彼女は右手の人差し指を立てて、自分の口元に当てる。


「気になるなー」


「いいのー!」


 ――二日後。


 カイルとアイリスは役所へ訪れていた。


 まだ開店申請の許可は下りていない。


「約束の予定日より遅れています。何か理由があるんですか?」


「わかりません」


「それではこちらも困ります。土地は既に確保しています。いつ許可が下りるんですか?」


「わかりません」


「何かこちらに不手際があればすぐに修正や対応をします」


「私に言われても困ります。上から言われてやっているだけなので……」


「でしたら、その責任者の方に取り合って頂けませんか?」


「それはできません」


「そこを何とかお願いします」


「いえ、そういう決まりなんで……」


「わかりました……」


 カイルはこのままでは埒が明かないと判断し、会話を切り上げて役所の外へ出た。


 (困った。こんなところで足止めを食らってしまうとは……)


「どうするの、カイル?」


 アイリスが心配そうにカイルの様子を窺っている。


 (なぜ許可が下りない? 何が原因なんだ?)


「……マグロックさんに一度相談してみよう」


 二人はマグロックの事務所に向かう。


 カイルは彼へ開店申請の許可が下りないことを説明した。


「詳しい理由はワシにも分からないな。……あくまで可能性の一つだが、考えられるとしたら選り好みしてるのかもしれないな」


 マグロックは腕を組み、首をかしげながら話す。


「選り好みですか……」


「何かしら独自の基準に沿って許可の可否を決めている……かもしれん」


「役所には取り合ってみたんですが、どうにも埒が明かなくて……」


「……そうだろうな。……すまんが、ワシにはどうすることもできんな……」


「相談に乗って頂いてありがとうございました」

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