第81話 出店の行方
カイル達はマグロックに礼を言って事務所の外へ出る。
今までの開店申請は滞りなく許可されていた。
このまま見通しが立たなければ、手に入れた土地を売却せざるを得ない。
そうなれば投資としては失敗だが、活用できない土地を保有したままよりは幾分ましだ。
(次はアマルフィーさんに相談してみるか)
カイルは最終決断をする前に、今自分ができることに精一杯取り組む。
アマルフィーの屋敷に到着し、彼へ事情を説明する。
「ふむ、開店許可が下りないか……」
カイルとテーブルを挟んで対面して座るアマルフィーが話す。
「はい、それでこのままだと王都に三号店が開店できません」
「それは困りましたね。どうするんですか?」
「何が原因かわからないんです。私には役所に掛け合うしか方法がなく、その役所もまともに取り合ってくれないので……正直手詰まりです……」
カイルは焦りの表情を浮かべる。
「……方法ならありますよ」
「ほんとですか! 三号店が無事出店できると取引量も増えますので、アマルフィーさんにも利益があります」
アマルフィーは思案した後、カイルに返事する。
「わかりました、協力しましょう。王都の役所に伝手がありますので、そこを通したら無事許可をもらえるかもしれません」
「ありがとうございます!」
「私が動いて話をつけておくので、しばらく期間を空けてから役所を訪問してください」
「わかりました」
カイルはアマルフィーに礼を言い屋敷を後にする。
馬車の荷台で待機しているアイリスにところへ向かう。
「どうだった?」
「アマルフィーさんの伝手で何とかなるかもしれない」
二人は事態が解決に向かうかもしれない糸口を見つけ、喜びを分かち合った。
――数か月後、ポートリラの店完成日。
カイルとアイリスはポートリラに来ていた。
カイル達はロムトリアの店の建築依頼経験から、ある程度建物についての知識は身についている。
店の外装と内装を入念に確認するが、特に違和感はない。
工務店に感謝を述べ、店の受け渡しを完了する。
「カイル、二号店おめでとう!」
「ありがとう、アイリス!」
二号店のスタッフはすでにポートリラで事前募集している。
さらに採用も決まって教育済みであった。
店の開店後しばらくはポートリラに滞在する予定だ。
円滑に店を運営できることを見届けてから三号店の開店に着手しようと考えていた。
――ポートリラの店が開店して一か月後。
ロムトリアの店での経験を活かし、店は順調な滑り出しだった。
「二号店の方も順調だね」
「そうだな。……気掛かりなのは王都出店……三号店の方だな」
運営が円滑に行えていると判断したカイルは、ポートリラを離れる。
カイルとアイリスは一旦ロムトリアの店に立ち寄った。
「ポートリラのお店の方はどうですか?」
エリスはカイルに尋ねる。
「今のところ、順調だな。エリスの方はどうだ?」
「こっちも順調ですよ。他のスタッフさんも一生懸命がんばってくれています」
「それならよかった」
カイルはエリスに微笑む。
「今日はここに泊っていくからな。仕事が終わったら皆で何か美味しいもの食べに行こう」
「はい!」
カイル達は夕方仕事が終わると町の飲食店に繰り出した。
エリス以外のスタッフとは最近話す機会があまりなかったので、食事しながら談笑を楽しむ。
辺りがすっかり暗くなった頃に解散し、カイル、アイリス、エリス以外のスタッフはそれぞれの家に帰っていった。
カイル達も帰路に着く。
「エリス、なんだか今日は嬉しそうだな」
「はい。美味しいご飯も食べられて……それに今日はカイルさんとアイリスさんがいるから」
エリスはカイルとアイリスへそれぞれ視線を合わせながら話す。
三人は店に着くと、それぞれの部屋に戻る。
各々用事が済んだ後、エリスの部屋に集まってポートリラの店の話題を中心に夜更けまで盛り上がった。
――翌日。
カイルとアイリスはエリス達と別れて馬車で王都へと向かう。
予定通り王都へ到着し、宿を確保した後に役所へ訪問した。
「カイルさんですね。許可は下りています」
カイルと何度か問答をした同じ担当者は、あっさり話す。
彼は担当者へ礼を言って書類を受け取った。
「なぜ今まで許可が下りなかったのですか?」
カイルはまともな返答が返ってこないと予想しつつも念のため聞いてみた。
「わかりません」
「そうですか、ありがとうございました」
役所を出たカイル達は、さっそく店建築の段取りに取り掛かる。
工務店はマグロックに紹介してもらったところへ頼むことにした。
理由は大きく二つある。
一つ目は、彼の紹介なので安心できることだ。
二つ目は、支払い方法がカイルにとって好条件だったからだ。
カイルは既に二店舗運営している実績がある。
その信用を元に今までのような全額前払いではなく、五分の一を着手金として支払い、完成後に残額を支払う契約にできたのだ。
この契約は全額用意してから着手するのに比べて早く開店できる。
王都に早く地盤を築きたいカイルにとってありがたい契約だった。
また新エリアに先行して開店させることで、後に参入してくる競合よりも前に顧客を獲得できる。
さらに顧客をリピーター化させることに成功すれば幾分有利に立ち回れるかもしれないとも考えていた。
カイルは工務店と何度か打ち合わせをした後に正式契約し、着手金を支払う。
「これで三号店の計画も進みそうだね」
「そうだな」
工務店への依頼を済ませるとカイルとアイリスは王都を出発してアマルフィー商会を尋ねた。
屋敷に到着し、アマルフィーと面談する。
「許可が下りていました。ありがとうございます!」
「無事上手くいって良かった。三号店の開店楽しみにしてるよ」
カイルは屋敷を出ると待機させていた馬車に乗り、ポートリラの店を目指す。
店に到着すると、スタッフから報告を受ける。
報告の中でいくつか接客面での課題もあったので、その後数日はカイルとアイリスも店に立つ。
スタッフが不慣れな部分はカイルとアイリスが補助すると同時に手本を見せる。
それを繰り返していくうちに接客面の課題は目立たなくなっていった。
あらかた店の課題を解決したカイルとアイリスはロムトリアへ向かう。
(店舗数が増えてくると、それぞれの店舗の状況を確認するのも大変だな。何か工夫しないと)
昼頃にロムトリアの店へ戻ってくると、ちょうどクルムが買付に出発するところだった。
「カイルさん、お久しぶりです!」
「クルム、元気にやってるな。買付とモンスターの方は慣れたか?」
「はい、買付の方はだいぶ慣れてきました。モンスターの方はまだですが……」
「仕事に慣れたのならそれでいい。モンスターの方はシフさんに任せて……それとクルム、もうすぐ王都に新店舗を出す」
「おー!」
「新しく立ち寄るルートになるから覚えておいてくれ」
「わかりました!」
カイルはクルムへ王都に立ち寄ってほしい予定日を伝え、荷台に乗っているシフにも一声かけて挨拶する。
「シフさん、お久しぶりです!」
「カイルさん、元気そうだね」
「はい! ……傭兵の方は募集かけているのですが、まだ集まっていません」
「定期的に孤児院の方にも立ち寄れているから多少長くなっても問題ない。気長に待つとしよう」
「ありがとうございます」
カイル達はクルムとシフを乗せた馬車を見送り、店の中へと入る。
カイルとアイリスは二階のそれぞれの部屋に向かう。
部屋に入ったカイルは椅子に座り一息ついた後、窓の方へと歩いていく。
彼は窓から外の景色を眺めつつ、王都での開店申請を巡る一連の出来事を振り返ってみる。
(開店の許可を出さないのはなぜだったんだ? 役所の怠慢だったのか?)
カイルは腕を組み始めた。
(もし、条件があるのなら最初から提示しておけばいい。その方が互いに手間がかからないはずだ)
彼はさらに思考を掘り下げてみる。
(何か意味があるのだろうか? そもそもこんなことをして誰が得するんだ?)
カイルの頭にふと一つの考えが浮かんだ。
(土地を売る側は利益さえ出ればいい。その後、その土地で開店できるかどうかは売る側にとっては関係ない。あわよくば格安で買い戻すことさえできる)
役所の対応を一旦頭から切り離してみる。
(……この流れで得をするとしたら土地を売る側だな)
それからカイルは自分なりに理由を考えてみるが、結局これといった結論を出すには至らなかった。
(これ以上考えても仕方ないな)
窓から遠くの景色を眺めていた視線を、眼下の道を行き交う人々へ移す。
人々が各々の目的に向かって歩いているのをしばらく眺めた。
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