第53話 武器と防具の購入

 ――翌日。


 カイルは店が建つ予定地に足を運んでいた。


 予定地には、まだ雑草が無造作に生えており空き地になっている。


 カイルは予定地をじっと眺めながら、ここに店が建った後のことを想像して胸躍らせた。


「店の完成まで、この街でやる事は全て終えたな」


「次はどこに行くの?」


 カイルの隣に立っているアイリスが聞く。


「行先はもう決めている。ガルミンドだ」


 ダガーを失ったカイルは、新たな武具調達のためガルミンドにあるファーガスト武具店に向かうことにした。


 昼頃、出発の準備を終えた二人は馬車に乗り込みガルミンドへ向かう。


 町へ到着すると、カイル達はファーガストの工房前まで来た。


 この町には図書館がなく、近所の飲食店で休憩した後に武具店で合流するとアイリスは話す。


 アイリスと一旦別れたカイルは工房の中へと進む。


 中では金属を叩く音が一定のリズムで鳴っている。


 その音源を探しながら奥に進むとファーガストがいた。


 カイルはファーガストに近づき話しかける。


「なんだ? 今忙しいんだ、用件なら店の方……おっ! 確かあんたは――」


「カイルです。お久しぶりです、ファーガストさん」


「おー、そうだ、そうだ。久しぶりだな! あれから商売繁盛してるか?」


「おかげさまで何とか」


「そいつはよかった。今日はどうした?」


「今日は用件が二つあってきました。まず、一つ目は報告から……この度自分の店を持つことになりました」


「おー! ほんとか! そいつはめでたいな!」


「ここまで来るのに色々ありましたが、ファーガストさんのダガーにはだいぶお世話になりました」


「けどあれは確か……失敗作だったな」


「とても失敗作には思えませんでした」


「はは! 嬉しいこと言ってくれるじゃねーか! 何にせよ役に立ったのならよかった」


「はい。ただ大事に使っていたんですが、ある事情で無くしてしまって……それで新しい武器の調達が二つ目の用件です」


 ここでカイルは以前、洞窟内でスライムと戦った時、ダガーに発生した現象のことをふと思い出した。


 (そういえば、あれはなんだったんだ? いい機会だ、聞いてみるか)


 カイルはその出来事をファーガストに説明する。


「ふむ……それはエンチャントの効果だな」


 (エンチャント? アイリスの魔法にもそういうのがあったな)


「例えば、武器に雷属性が付与されたりなどですか?」


「そう、そんな感じだ。製作者によっては武器や防具に特殊な効果を宿らせることができる」


「特殊な効果……そういうことだったんですね」


「そのダガーはスライム系への特効効果が付与されていたのかもしれないな」


「付与する効果は選べたりするんですか?」


「どういった効果が付与されるかは分からない。それに効果を製作者が選ぶこともできない」


 (狙った効果を付与させるのは難しいみたいだな)


「ちなみに効果が複数付与されることはあるんですか?」


「もちろんある。その様子だと、だいぶ気になってるみたいだな」


「はい、ずっと気になってました。……それで最後に一点なんですが、付与される効果って良いものばかりとは限らないんですか?」


「そうだ。良くない効果は呪いなんて呼ばれたりもする」


「呪いですか……」


「武具には製作者の魂が宿る……なんて言われているからな」


 ファーガストは続けて話す。


「だから、その製作者が込める魂によっては呪いとして効果が現れるのかもしれんな」


「だいぶ理解できました。説明ありがとうございます」


「おー。……それで武器は何にするんだ? 既製品ならすぐ手に入る」


 (既製品は店頭に並べて飾られているものだな)


「特注品なら、どれぐらいで手に入りますか?」


「既製品を少し加工するなら数日ほど、完全特注品なら数か月待ちだ……通常ならな」


「通常なら? ということは今は何か問題があるんですか?」


 ファーガストはガルミンドの工房へ鉱石を納入している業者が、事の発端であると話す。


 以前は複数業者がいたが、今ではたった一業者のみとなっているそうだ。


 そしてその業者が最近、鉱石の値段を吊り上げ、納入される鉱石の質も低下しているとファーガストは説明した。


 その為、質の良い鉱石をわざわざ遠方から取り寄せているそうだ。


「以前のように安定供給されればいいんだがな」


 カイルは腕を組んでしばし考えた。


 (その業者と交渉する? いや、まともに取り合ってくれないな)


「……質の良い鉱石はこの辺りの鉱山で採掘されるんですよね?」


「そうだな」


「鉱山は全てその業者が管理しているんですか?」


「そうだな。…………いや、待て。確か数年前にある鉱山でモンスターが湧いた。それで泣く泣く閉山し所有権を放棄したと聞いたことがある」


 (それなら活路があるかもしれないな)


「その鉱山はどこにあるんですか?」


「もしかして、そこに行く気か? 危ないぞ」


「様子を見に行くだけですよ」


 カイルはファーガストから鉱山の場所を教えてもらった。


「そういう事情なら武具については既製品を購入します」


「詳しい説明は武具店の方で聞いてくれ。ワシより丁寧に説明してくれるはずだ」


「わかりました、ありがとうございます!」


 カイルは工房から出て隣の武具店に向かった。


 店の中に入ると、店の奥でアイリスが展示されている武具を眺めていた。


 カイルはアイリスの傍に近づき話しかける。


「もう店に来ていたのか」


「どんな武具が売ってるのか気になっちゃってね」


「そうか、俺もちょうど話が終わって今から武具を選ぶところなんだ」


「それじゃー、私も一緒に見るよ」


 カイルは店主に話しかけた。


「すみません、武具を見繕ってほしいです」


「どんな武具をお探しでしょうか?」


「片手持ちで取り回しが良い剣、動きやすい防具を探しています」


「かしこまりました。まず片手持ち剣で取り回しがいいとなると、クレイモアやバスタードソードだと大きすぎますね」


 担当者が店に飾られている剣を手で指し示す。


 カイル達もその手の先へ視線を向けた。


 (確かに大きすぎるな)


「そうですね。もう少し小型剣を希望しています」


「そうなりますと……こちらへどうぞ」


 カイル達は大剣のみが飾られている棚から移動する。


「こちらにあるのがロングソード、さらに小型になるとショートソードですね」


 (これぐらいがちょうどいいな)


「取り回し重視だとショートソードがいいかもしれませんね」


「手に持ってみてもいいですか?」


「どうぞ」


 カイルは最もグレードの低いショートソードを手に取ってみる。


 カイルが以前持っていたダガーより質素な装飾ではあったが、しっかり職人の意匠が込められていると感じた。


 (軽い。ダガーと同じような感覚で扱えそうだ)


 一通り感触を確かめた後、棚に戻す際にさりげなく値段を確認する。


 (一番低いグレードでも金貨八十枚か)


「……この剣を買います」


「ありがとうございます! では次に鎧ですが動きやすいものをご希望でしたね?」


「はい」


「ではこちらへどうぞ」


 カイル達は革鎧の棚へ案内された。


「基本素材は革で重要部位を一部金属であしらったものがお勧めですね」


 (これは動きやすそうだな)


「では、これを試着してみていいですか?」


「はい。では準備しますので少しお待ちください」


 カイルはレザーアーマーを試着して店の奥から出てくる。


「どうだ?」


 カイルはアイリスの方を向いて意見を聞く。


「うん、すごい似合ってるよ!」


 カイルは実戦を想定して体を動かして感触を確かめた。


 (違和感はない。体に合っているようだ。値段は……金貨五十枚か)


「鎧はこれにします」


「ありがとうございます!」


 カイルは装着したまま会計を済ませて店の外へ出た。


 カイルはアイリスへファーガストに挨拶と礼をしてくるから工房の入り口の前で待っててほしいと伝える。


 アイリスは入り口で待ち、カイルは工房の奥へと入っていく。


「おっ! 武器と防具を調達したんだな。有効活用してくれよ」


 そう言ってファーガストはふと工房の入り口に視線を向けると、そこへ立っているアイリスが視界に入った。


「ん? 工房の前に立っている女の子は……カイルの彼女か?」


「ち、違いますよ! 旅の仲間です」


「なんだそうだったのか。ワシはてっきり――」


「で、では失礼します」


 挨拶と礼を済ませると、カイルは工房から出てきた。


「二人で私の方見て何か話してたけど、どうしたの?」


「な、何でもない」


 じー


 ひゅー、ひゅひゅー


 カイルはアイリスのジト目に対抗して、とっさに口笛を吹いてごまかす。


「あー、ごまかしたー!」


「見ての通り、俺の防御力も上がってるんだ。探検家アタックとやらの新技では傷一つ付けられんぞ!」


 アイリスはポーチをごそごそして魔導書を取り出そうとする。


「すまんかった、それは勘弁してくれ」


 アイリスはごそごそするのを止めた。


「装備も整ったしロムトリアに戻るの?」


「戻る前に立ち寄るところができた。詳しいことは宿に戻ってから話す」


 宿の部屋に戻り、カイルはアイリスに鉱山のことについて説明した。

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