第51話 王都への帰還と新たな旅立ち

 船は途中モンスターに襲われることもなく、順調にポートリラを目指す。


 カイルとアイリスは船のデッキに出て、島一つない大海原が広がる景色を眺めていた。


 カイルは聞き耳を立てている人間が周りにいないことを確認してアイリスに話しかける。


「アイリス、魔法ってたくさん種類があるのか?」


「うーん、詳しいことは私も分からないの。持ってる写本には初級魔法って書いてあるよ」


「なら中級とか上級もあるってことか」


「たぶんあると思うよ。この本には書いてないけどね」


 アイリスは今持っている魔導書の魔法はだいたい使えると説明する。


 また、魔導書の写本は図書館で手に入れたが、ルマリア大陸のオンソローの図書館にはなかったとのことだった。


 (今後、新たな魔導書の所在についても気にしてみるか)


 その後も何事もなく船は無事ポートリラへと到着した。


 船を降りた二人は王都へと向かい、到着するとアイリスを実家に送り届ける。


 王都を出発する時に再びアイリスと合流する予定だ。


 カイルはアイリスと一旦別れた後、ある人物の元へ向かう。


 手に持った地図に目を通し、目的地を確認する。


 王都の道にはだいぶ慣れてきていたので、歩いてほどなくすると目的地の建物の前に着いた。


 (ここか)


 カイルは目の前に佇む、年季の入った木造の建物の扉をノックする



「おー! カイル!」


 中の人が扉を開き、尋ねてきたのがカイルだと分かると笑顔で話しかける。


「マグロックさん、お久しぶりです!」


「とりあえず中に入れ」


「失礼します」


 マグロックに部屋の中へと案内されて椅子に座る。


 部屋の中はギルド マグロックの時と比べて調度品などもなく、飾り気はほとんどなかった。


「カイルがここを尋ねてくるのは初めてだな」


「はい。……今日はマグロックさんに話があってきました」


「おー、そうかー。どんな話なんだ?」


 カイルは単刀直入に話始める。


「…………ガストルさんに会いました」


「……何!?」


 マグロックは驚きの言葉を上げた。


「その……どこで会ったんだ?」


 カイルはガストルとルマリア大陸で出会い、その際にマグロックへ謝罪していたことも話した。


「それで……これはガストルさんから預かってきたものです」


 カイルは自身とマグロックとの間に置かれているテーブルの上へ持参した金貨袋を置いた。


 置いた瞬間、ずっしり重量感のある音が鳴る。


 マグロックは袋を開けて中身を確認した。


「……これ全部金貨なのか?」


「そうです」


「ざっと数百枚といったところか。これを返済するって言ってか?」


「はい」


「それでガストル本人は戻ってきてないのか? 直接渡せばいいだろう?」


「…………」


「どうした?」


「……ガストルさんは戻ってきません。…………ガストルさんは…………レイジーンに――」


「わかった。それ以上言わなくていい……」


 二人の間にしばらく沈黙が流れた。


「……そうだ、カイル! 前にワシが紹介状渡しただろう?」


 マグロックの声が沈黙を破る。


「はい、頂きました」


「訪問してみたか?」


「はい、訪問したのですが新規商談は断られてしまいました」


 カイルはアマルフィー商会での出来事を説明した。


 さらに取引してもらうため、自分の店を持とうとしていることも話す。


「あいつはその辺手厳しいからな。だからルマリア大陸に渡ってたわけだな」


「はい。それで王都に戻ってきたので報告も兼ねて来ました」


 そこまで聞くとマグロックは思案し始めた。


「……このガストルから預かった金貨だが、カイル……半分持って行け」


「……いえ、これはマグロックさんへの返済分です。それはできません」


「なぁに、もう戻ってこないと思っていた金貨だ。それが数百枚でも戻ってくりゃ十分だ」


 (この金貨があれば、目標資金までほぼ到達する。だが、こんなあっさり貰ってしまっていいのか?)


 カイルは葛藤で黙って首を縦に振ることはできなかった。


「これはワシからの餞別だ」


「それは非常にありがたいのですが……」


「ならいいじゃねーか」


「ギルドを抜ける時も配慮してもらってるので、好意に何度も甘えるわけにはいきません」


「そんなの気にすんな! 自分の店を持つんだろ? 一人前の商人になれ! そして、その姿をワシに見せてくれ!」


 そこまでマグロックに言われると、カイルもついに覚悟を決めた。


「……わかりました、ありがとうございます!!」


「そうそう、そういう思い切りも大事よ」


 マグロックは金貨を半分取り出して、別の金貨袋に入れてカイルに渡した。


「ところで店はどこに出すか決めてるのか?」


「いくつか候補は考えていますが、具体的にはまだ……」


「そうか。店を建てたら連絡してくれ」


「わかりました」


 マグロックと固く握手を交わすと外へ出る。


 カイルが受け取った金貨は二百枚だった。


 (これで金貨九百枚ほどになったな。買い付けた商品を売れば目標の千枚にほぼ届く)


 カイルはどの町に自分の店を建てるか迷っていた。


 候補は三カ所ある。


 一つは、ここ王都ロムヘイムス。


 人口も多く顧客もそれだけ多い。


 ただし、競合も増え、人気が集中していることもあり出店費用は高額になる。


 二つ目は港町ポートリラ。


 ルマリア大陸から運ばれた積荷は、この町で一旦船から降ろされる。


 ここに店を建てれば、そこから内陸部への運搬の手間が省ける。


 だが、それは他の人間も同じことを考えているため、商品の差別化が図りにくい。


 三つめはロムリア王国第三の街ロムトリア。


 名前にロムが含まれている街は、王国の建国者の名前に由来している。


 建国初期にできた街であるため、それだけ歴史があることを示す。


 この街は王都より人口は少ないが、競合も少ない。


 王都よりもさらに内陸部にあるため、ここまで運搬できれば商品の差別化を図ることができる。


 運搬費が最も高額になるが、出店費用は王都より安い。


 王都とポートリラはすでに調査済みである。


 カイルは次の目的地をロムトリアに決めており、アイリスには三日後に出発すると伝えている。


 用件が全て済んだカイルは宿に向かい、出発まで王都で休養しつつ、買い付けた特産品の販売を行った。


 ――三日後。


 アイリスは丸々と太ったリュックを背負っていた。


「送った時はリュック痩せてたのに、また丸々と太ってるなー」


「お、重いよー」


「探検家かな?」


「そのツッコミ、二回目ー」


 アイリスは隣に並んで歩くカイルに肩で軽く体当たりをした。


「いってー! なんなんだよ急にー」


「探検家アタック」


「なんだよそれ?」


「新技だよ。リュックの重みで攻撃するの」


「よわそう」


 アイリスはさっきよりも若干強く体当たりした。


「いたたた! わかった、わかった!」


「ふっふっふっ、分かればよろしい!」


 アイリスは満足そうに微笑んだ。


 カイルはアイリスからリュックを受取り、馬車の荷台に積み込む。


 二人を乗せた馬車は王都を出発する。

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