第50話 出港

 カイル達はレイジーンを振り切って林の中を突き進み、しばらくすると細道に出た。


「なんとか林を抜けられたね。けど、ここはどこなんだろう?」


 カイル達は無我夢中で走っていたので、現在位置が分からなくなっていた。


 来た道を引き返すとレイジーンに遭遇する可能性があったので細道を進むことにする。


「今日は野宿になるかもしれないね。日が落ちる前に野宿に適した場所を見つけたいね」


 (俺はガストルさんを救えなかった。それどころか亡骸も回収できず放置して逃げてしまった……)


「どうしたのカイル? さっきから黙り込んじゃって。具合悪い? 大丈夫?」


 (アイリスとロゼキットは俺とガストルさんとのやり取りを見ていない。それにガストルさんとレイジーンがギルドメンバーであることも知らない)


 アイリスが心配そうにカイルを見つめている。


 (そのことを話すか?……いや、だめだ。アイリスを巻き込んではいけない)


「……大丈夫だ、なんでもない」


「もし具合悪かったり、さっきの戦いで怪我してたなら無理せずどこかで休憩しよ」


「……ありがとう、アイリス」


 歩いていると途中見晴らしの良い丘を見つける。


 その丘へ登り、周囲の状況を確認すると眼下の景色は木々の緑に覆われていた。


 視線を遠くに向ける。


「あっちの方角に町がある。だいぶ遠ざかってたみたいだ」


 ロゼキットがカイルとアイリスに伝える。


 少し日が落ちてきたので、今日はこの辺りで野宿し、明日早朝から町へ向かうことに決める。


 周辺からよく燃えそうな木の枝を集めて、焚火を作るように並べた。


 アイリスの魔法ファイアボルトで火をつける。


 焚火を中心として、周辺が炎の明かりでぼんやりと照らされた。


 焚火を囲んで携帯食料で食事をとりながらアイリスとロゼキットが談笑している。


 カイルは時々会話に入るものの、どこか上の空であった。


「今日は、重たい金貨を持って、たくさん走って疲れたよ。じゃー、俺は先に睡眠取らせてもらうよ」


 夜も更けてきた頃、ロゼキットが就寝の準備を始める。


「あー、でもせめて荷台の上で布敷いて寝たかったなー。……それじゃーおやすみ」


 ロゼキットは何やら小言を言いながら、就寝する。


「おやすみ」


 カイルとアイリスが深夜の見張り、警戒担当となった。


 アイリスは立ち上がり周囲を見渡すと、ちょうど二人が座れる椅子代わりになりそうな岩を見つける。


「カイル、あの岩の上に座ろ」


 二人は岩へ互いに肩が触れない程度の距離で並んで座った。


 カイルは焚火の火の揺らめきをぼーっと眺めている。


「そういえばカイル、さっきから気になってたんだけどダガーはどうしたの?」


「昼の戦いで落としたんだ。それで回収しそびれた」


「確か……ふぁー……なんとか製で良いものだったんだよね。もしかしてそれで落ち込んでいるの?」


「……そうじゃないんだ……」


「そっかー、何か言いにくい悩みがあるんだね。話したくなったらいつでも話してね」


「……ありがとう………………聞いてくれるか?」


「うん」


「……実は今回の依頼に一枚かんでたのが以前所属してたギルドの仕事仲間だったんだ……」


 それからカイルはガストルやレイジーンと同じギルドメンバーだったこと、彼らがギルドを裏切ったこと、そして目の前でガストルがレイジーンに殺害されたことを打ち明けた。


「話してくれてありがとうね」


「すまない。アイリス達を巻き込みたくなくて今まで黙ってた」


「いいの。気にしないで」


「色々考えてしまうんだ……みんな俺の前からいなくなるんじゃないかって……」


「カイルはもう一人になんかならないよ」


 互いに少し沈黙すると、ふいにカイルの肩へアイリスの肩が寄りかかった。


 アイリスは瞼を閉じている。


 焚火の明かりに照らされたアイリスの顔は美しく、昼間とはまた異なる魅力を放っていた。


 カイルは彼女が完全に眠ったと判断すると、起こさないようにそっと抱き抱える。


 事前にベッド代わりとして敷いてあった布まで運び、彼女を降ろす。


 その上から、体が冷えないよう彼女へ布をかぶせた。


 カイルは夜が明けるまで周囲を警戒する。


 ――翌朝。


 空へ太陽が昇り夜の終わりを告げた。


 朝日がカイル達を照らす。


 その光はアイリスを目覚めさせ、体をゆっくりと起こす。


「おはよー、カイル」


「おはよう」


「私いつの間にか寝ちゃってたみたい。あれ? 確か岩の上に座ってたのに、どうしてここへ?」


「アイリスの新しい魔法だろ?」


「えへへ、そうかも。……ふふ、ありがとね」


「俺もな」


 続けてロゼキットもごそごそと動き出し目覚める。


 その後、三人は出発の準備を整えた。


「それじゃー、町に向かおうか!」


 ――出港当日。


 カイルは馬車へフロミアから買い付けた特産品の積み込みを終えた。


 荷台には、特産品の他に船売却で得た金貨に加え、ガストルから預かった金貨も載せている。


 フロミアに挨拶を済ませると、カイル、アイリス、ロゼキットの三人は港へと向かう。


 先に馬車を客船に積み込み、近所の飲食店で出港まで時間を費やした。


「危ない場面もあったけど、カイルのおかげでいい経験ができたよ」


「俺の方こそロゼキットのおかげで助かった」


 ロゼキットはルマリア大陸に残り、新しい仕事を探すと話す。


「依頼受付所にも登録しとくから、仕事の依頼があれば声かけて」


「わかった。ロゼキット、ありがとうな!」


「ロゼキットさん、またね!」


 カイルとアイリスはロゼキットに別れを告げ、客船に乗り込む。


 二人を乗せた船はロゼキットに見送られルマリア大陸を後にした。

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